22 April 2011

最判平成22・2・16民集64・2・349(軽油引取税における「製造」)

不正軽油で,軽油引取税の脱税や,硫酸ピッチの不法投棄などが起こる。まさにそういう事案。仕入れた重油と灯油を石油精製工場に持ち込み,工場を設置する会社に委託してこれらを軽油にし,販売先に譲渡する取引を行っていた業者が,「軽油の製造」を行った可能性があるとして,最高裁は事件を破棄,原審に差し戻した。

原審が所有権の原始取得の有無を判断基準にしていたのに対し,最高裁は諸要素の総合的勘案により実質的に果たしていた役割をみよと判示。軽油引取税は道府県税だから,県ごとに総合判断の結果が分かれると,同一の取引に対して複数の県が課税する可能性がある。課税の競合である。地方税法144条の40は,道府県は相互に協力しなければならないと定めるが,これは,解釈適用の足並みをそろえるところまでいくのだろうか。

もっとも,県が摘発できなかったからこそ,不正軽油が社会問題になった(「執行の不足」)。とすれば,制度設計の上でより大きな問題は,課税の空白かもしれない。

20 April 2011

A man for all seasons

1966年の映画に出てくるKing Henryのふるまい,これが専制君主というものか。あらすじはこれ

17 April 2011

最判平成22・4・13民集64・3・791(名古屋市の土地買取と譲渡所得の5000万円特別控除)

都市計画法上の強制的買取という形をとることで,5000万円の特別控除を利用して申告した事案。最高裁は高裁判決をくつがえし,特別控除を認めなかった。その理由は,土地所有者が具体的に建築物を建築する意思を欠き,都道府県知事等による当該土地の買取りが外形的に都市計画法56条1項の規定による買取りの形式を採ってされたにすぎない場合には,租特法33条1項3号の3所定の「都市計画法第56条第1項の規定に基づいて買い取られ,対価を取得する場合」に当たらないというもの。

この事案は,いくつかの興味深い問題を含んでいる。巨視的な視点からみると,土地買収にかかる公共支出と,譲渡所得税における租税優遇措置を,統合的に観察すべき事案かもしれない。用地買収の資金が足りない場合に,土地所有者に譲渡所得税がかからないルートを選ぶことで,その分,名古屋市としては買収資金を低めにおさえることが可能になる。租税上の利益(tax benefit)が,土地所有者から名古屋市に移転していることになる。最高裁はそのような移転自体をいけないといったのではなく,するつもりもない建築許可申請を出させて,「うそ」をいわせて租税優遇措置を利用することを否定したのではないか。

09 April 2011

文書回答平成23・2・10(事業用預金のペイオフ損失)

預金保険機構の照会に対し,国税庁課税部長が回答したもの。個人事業主の所得計算に影響を及ぼす事業の遂行上生じた非付保預金(いわゆる事業用預金)と,その未払利息について,手続の段階に応じ,貸倒引当金と資産損失として必要経費算入を認めた。

これに対し,個人事業者の事業用預金以外の預金についてのペイオフ損失は,資産損失や雑損控除にあたらない。所得税法上の家事領域と事業領域の区別が,ここにもあらわれている。

08 April 2011

最判平成20・10・24民集63・9・2424(ミュンヘン再保険会社事件,都民税還付加算金の起算日)

事実経過としては・・・
1)日本国内にPEがあるとされ国税サイドで法人税の決定処分
→2)納税者が都民税について納付し申告
→3)日独租税条約の相互協議の結果PEありとされPEに帰属する所得について再計算
→4)国税サイドで法人税の減額更正
→5)東京都が都民税の減額更正
という流れ。

争点は,それに伴う還付加算金の起算日の基準が,2)なのか(納税者の主張,第1審判決),5)なのか(東京都の主張,控訴審判決)。どちらにするかで,5億円もちがってくる。

最高裁は,地方税法の規定を趣旨に照らして読み込み,納税者の主張を認めた。その後,平成22年度税制改正は判決を追認し,2)を起算日の基準とした(地方税法17条の4第1項1号)。

今後は,相互協議の申し立て時に地方法人税を納付しておく,という実務になるか。

02 April 2011

最判平成22・7・16判例時報2097号28頁(医療法人の出資の評価)

ある医療法人につき,基本財産が24億円あり,運用財産が17億円の債務超過のため,法人の財産全体でみた評価は7億円であった。この医療法人の定款により,出資社員(納税者)は,退社時の払戻しも解散時の財産分配も運用財産のみからなされることとされていた。この場合において,最高裁は,法人の財産全体を基礎として類似業種比準方式により評価することは合理性がある,と結論した。

  • 基本財産 +24
  • 運用財産 -17
  • 全体財産  +7

最高裁の理由付けのポイントは,定款を変更することにより,医療法人の財産全体につき(つまり基本財産も含めたところで)払戻しなどを求め得る「潜在的可能性」を有する,というものである。つまり,たまたま運用財産にだけ出資にかかる権利を有するように定めてあるけれど,出資社員は,あとで定款を変更すれば法人財産の全体を丸取りできる,というロジックである。

本件判決は,持分の定めのある医療法人に限った判断と考えたい。だがこのロジックの射程は,潜在的可能性としては,種類株の評価にも及びかねない。平川雄士・ジュリスト1413号58頁が示唆するように,もうすこしきめこまかに展開する必要が高い。判旨のテクストからは,次の点が手がかりになろう。

  • 最高裁は,評価通達の類似業種比準方式で評価することのできる「特別の事情」があれば,異なる評価をする余地を認めている。
  • 医療法人については,定款の定めのいかんによって「当該法人の有する財産全体の評価に評価が生じない」と述べており,定款の定めのいかんによってはこの場合に該当しない。

なお,定款で持分を変更すること自体,出資社員間に権利関係の変動を生じさせることがある。そのような変動に伴う経済的価値の移転や含み損益の実現をどう考えるか。本件の争点からは離れるが,そういった問題もありそうだ。

01 April 2011

日本語の未来を載せたクルマ


「をちこち」へのリンク
2011.4. 1New

日本語の未来を載せたクルマ -新しい日本語能力試験(JLPT)

「うわああぁ、と、となりの動物園で、が、楽団がっ」(絶句)

26 March 2011

災害に関する主な税務上の取扱いについて


2011年3月24日付けで、東北地方太平洋沖地震関連の国税庁からのお知らせが出ました。

24 March 2011

米国のtax scholarshipはuselessか

2011年3月7日号のTax NotesにのったViewpointsに対して,3月14日号で,Duke Law SchoolのZelenak教授が反論した。その骨子をあらっぽくいうと・・・
  • 実務にとって有益な租税法の論文は消滅していない
  • 有益であるか否かの判断基準はより広くとらえるべきであり,たとえばtax policyについて研究論文を書くことも有益だ
  • 一見無益な理論的検討に熱中する研究者を責めないでほしい
といったようなことになる。1992年にJudge Edwardsが投げかけた批判の焼き直しだというコメントを含め,原文はこれをみよ。

04 March 2011

東京地判平成22・2・12(遠洋マグロ漁船員の住所)

インドネシア国籍の漁船員の住所が日本国内にないと判断した事例。

判決は,住所の意義について「社会通念に照らし,その場所が生活の本拠たる実体を具備しているか否か」で判断するとしたうえで,「船舶内は,その者にとってあくまで勤務場所にすぎないのであって,その乗船員がその地に定住する者としてその社会生活上の諸問題を処理する拠点としての生活の本拠は,その乗船員が生計を一にする配偶者や親族の居住地,あるいはその乗組員が,船舶で勤務している期間以外に通常滞在して生活する場所である」と述べた。この判示で,住所が日本国内にないという結論を導き出せそうである。

ただし,判決はさらに,「動産であり移動する船舶それ自体は『国内』であるということはできない」と判示する。この点,日本の国旗を掲げる船であれば,日本の法律の施行地であるというべきではないか。

この訴訟で争われていない問題は,日本とインドネシアの間の租税条約の適用関係である。本件の漁船員の勤務は,「他方の締約国(日本国)内において行われる場合」(15条1)にあたるのであろうか。

01 March 2011

AGAINST INTELLECTUAL MONOPOLY(2008)

Michele Boldrin and David K. Levins, AGAINST INTELLECTUAL MONOPOLY (2008)は,知的財産の擁護論を全否定。山形さんらの日本語訳がある。

26 February 2011

フランス革命前夜の財政

熱血のパンフレットが,その後読み継がれる古典となった。タイユ税の実態など,いわゆる近代税制ができてくる前の問題点が活き活きと読み取れる。

第三身分とは何か
シィエス
稻本 洋之助,伊藤 洋一,川出 良枝,松本 英実 訳

19 February 2011

最判平成22・10・15民集64・7・1764(所得税還付請求権の相続財産性,上野事件)

Aが生前に所得税更正処分について訴訟を提起していたところ,Aが死亡し,Xが訴訟を承継した。その後,処分の取消判決が確定し,所得税の過納金がXに還付された。Xは,これは相続財産を構成せず,Xの一時所得になるとして申告した。これに対し,税務署長は,相続財産にあたるとして,相続税の更正処分をした。

最高裁は,相続財産にあたると判断した。そうなると,同じ事案が将来に生じた場合,係争中の訴訟にかかる還付金を,いくらで評価すべきかが問題になる。この点,財産評価通達210は,「係争中の権利の価額は,課税時期の現況により係争関係の真相を調査し,訴訟進行の状況をも参酌して原告と被告との主張を公平に判断して適正に評価する」としている。筋のとおった取扱いではあるが,相続税の申告のアドバイスをする場合,判断に苦しむことが多いのではないか。割り切ってたとえば係争価額の5割評価を認めておき,裁判の確定後に調整する,といった解決ができればよいのだが。

[以下,2011年5月17日追記]
*係争関係の真相調査により適正に評価した金額が10で,10が相続財産のとして申告是認されたとする。そのあとで,訴訟が終結し,50の還付金が戻ってきたとしよう。差額の40だけ,さらに相続税が増額更正されることになるのだろうか。40があらためて相続人の一時所得か雑所得になるという解釈論は,判決のロジックとはあまりしっくりこないようだが,保険年金二重課税事件判決との関係も問題。
*宝くじを相続したあとで,1億円があたったら,その1億円は相続財産にならないだろう。これに対し,賃料増額請求や契約解除のような場合には,すでに相続財産があったということになるのだろうか。


04 February 2011

東京地判平成21・7・29判例時報2055・47(F1事業寄附金事件)

オランダ法人A社の営むF1事業に関し,内国法人Xが①担保提供→②資金提供→③債権放棄をしたところ,②が,租税特別措置法66条の4第3項にいう寄附金にあたるとした事例。②は,「形式的には消費貸借契約に基づく金銭の交付であったとしても,その実質は,A社に対して金銭を対価なく移転するものであり,かつ,その行為について通常の経済取引として是認することができる合理的理由は存在しない」としている。控訴審で維持,確定。

21 January 2011

最判平成21年12月10日(遺産分割と税徴39条)

滞納者が遺産分割をして,他の相続人に対して相続分をはるかに超える財産を取得させた事例で,国税徴収法39条の「第三者に利益を与える処分」に当たるとした。一般論は法定相続分を超える場合には「当たり得る」というものであり,事案へのあてはめについては原審の判断を是認しているから,相続分からどの程度乖離していれば該当するかが射程の問題になる。この事件では,滞納者である父親(相続分1/2)が相続財産の10%を得て,子ども(相続分1/4)が63%を得ている。