08 December 2014

ティップス先生からの7つの提案

これまで、授業にあたって、「成長するティップス先生」にたいへんお世話になってきた。
その後、「ティップス先生からの7つの提案」が出ていたことを、ようやく知った。「教員編」とか「学生編」とかに分かれていてわかりやすく、こちらにもお世話になりそう。




24 November 2014

シドニー大学でBEPSに関する研究集会が開かれていた

プログラムはこれであり、2年間の行動計画の折り返し点をすぎたこの時期に、識者がペーパーを持ち寄って、今後どうやって実施していけるかを議論するもの。

多くのペーパーは未公表のものであるためパスワードがかかっている。しかし、中には、62 Canadian Tax Journal 433 (2014)の論文や、行動計画4に関するWorld Tax Journal掲載のこの論文など、すでに公表済みのものもある。また、二日目午後の「BEPSと途上国」のリンクは、2015年11月15-16日ブリズベーンG20サミットのコミュニケをパスワードなしで参照している。

The University of Sydney

01 November 2014

欧州委員会がVAT改革の5つの選択肢を示していた

2014年10月30日付けのこのプレス・リリースである。これまでの経緯や文書はここにまとめられており、今回のStaff Working Documentはここから閲覧できる。原産地主義への当初のコミットメントから確定的に離脱し、仕向地主義に一本化する動きを読み取ることができる。

今回のStaff Working Documentは、財の取引を念頭においている。これは、検討の順序として、まず財のB2B取引の検討からスタートし、そこで進展がみられれば、サービス取引やB2C取引を検討するということのようである(3頁下の段落)。

基本的な論点として

  • 納税地の定義(顧客所在地か財のdelivery地か)
  • 納税者を供給者にするか(option 1 and 2)、顧客にするか(リバースチャージ、option 3 and 4)

のふたつを示したうえで、EU域内取引のVAT課税についてつぎの5つのオプションを示している。

Option 1: Taxation of intra-EU supplies where the goods are delivered
Option 2: Taxation of intra-EU supplies where the customer is established regardless of the place of delivery of the goods
Option 3: Reverse charge where the customer is established
Option 4: Reverse charge where the goods are delivered
Option 5: Status quo with some simplification of the procedures



09 October 2014

NYU/UCLA租税政策シンポジウムがビデオになっていた―ピケティ『21世紀の資本』を討議

一日分の議論の様子をここから見ることができる。
エコノミスト・法律家・歴史家・政治学者・哲学者と、本人によるシンポジウム。
このブログによると、来年のTax Law Reviewに掲載するとのこと。

01 October 2014

資本は動くが、労働も可動である

Reuven S. Avi-Yonah, And Yet It Moves: Taxation and Labor Mobility in the Twenty-FIrst Century, 67 Tax Law Review 169 (2014) は、次の議論を提示して、二元的所得税の前提を疑っている。すなわち・・・

  • 資本は可動性が高いというのは、個人に関する限りあてはまらない。
    • 法人税は帰着が不明のため資本/労働の峻別論に対してイレレバント。
    • 米国居住者・市民が、自ら国外に出ることなしに配当・利子・キャピタルゲインに対する所得税を逃れることは、原則としてできない。全世界所得課税とその補完のためのPFICルールがあるし、オフショア口座についてはFATCAで捕捉されるから。
  • 労働は可動性が低いというのは、移民制限を前提としており、21世紀の現実にあてはまらない。
    • 低所得者にとって、合法・非合法の移民の数は相当大きい。
    • 高所得者(=資本所得を稼得)にとって、移動に対する法的な制約はほとんど存在しない。
この論文は、このように論じたうえで、結論として、Tiebout(1956)にたちもどって、居住者の選好を反映する税率設定を行うべきであるとする。米国について具体的には、次の政策上の含意を導き出す。
  • 配当・キャピタルゲインに対する税率を利子・賃金と同じに設定する。
  • 税率設定は選挙で選ばれた代表が通常の政治プロセスを通じて行う。
  • この結果を好まない人の国外退出を許容する。
すぐに読みきれるほど短く、かつ、論争喚起的な小論文である。「資本の可動性が高い」ということを前提としてきた租税政策論の基礎を疑っているところに、特徴がある。著者自身がイメージしている税率は、1986年改正時の28%である(183頁)。

日本の眼からして、考えさせるところがある。たとえば・・・
  • 日本の所得税は建前上は居住者に対する全世界所得課税であるが、PFICのようなルールをもたない。また、国外財産調書制度の下限から漏れるものもかなりある。とすると、「資本を国外に逃がすことで資本所得課税を免れることはできない」といえるだろうか。制度の運用にたちいった実証が必要ではないか。
  • この論文は出国税(Exit Tax)の現実について、かなり辛口の見方をとっている。米国の2008年改正以後に市民権放棄をした数が急増したという統計をあげて、「この増加の理由は2008年以降は国籍離脱が恥ずべき行為ではなくなったことにある。国籍離脱は政府の決めた価格を伴う行為になったのである。」と述べている(180頁)。市民権課税をとる米国ならではの問題かもしれない。居住地変更だけで全世界所得課税を免れることのできる国では、他にもいろいろと考えるべき点がありそうである。
すこし検索してみたら、すでに2012年5月に、ワーキングペーパーとしてSSRNにポストされていた。気がつくのが遅くなった。その後、さらに議論が生じているかもしれない。

30 September 2014

アイルランドのアップル社に対する租税優遇措置を、欧州委員会が違法な国家補助金とみていた

この記事である。6月11日の段階で書簡を送っていたという。この段階で公表するとは、どういう背景があるのだろうか。

(10月1日追記)原文はこれ。 

28 September 2014

NYUのTillinghast Lectureがビデオになっていた

このサイトが第17回のもの。これが第18回のもの。
こういうのが自宅でいくらでも見られるとは、便利な時代になったものだ。

24 September 2014

OECDとG20、発展途上国とBEPS・自動的情報交換に関する文書を公表

9月16日のBEPS 2014 Deliverablesの公表につづき、9月22日にG20の要請を受け、OECDがきたる11月に応答するとのこと。そのもとになったのが、このふたつの文書である

  • Report on the Impact of Base Erosion and Profit Shifting in Low Income Countries (Part 2); and
  • Roadmap for developing country participation in the new global standard for the automatic exchange of information between jurisdictions.


23 September 2014

米財務省、インバージョン対策の強化を発表



米財務省は22日、節税のための本社移転の抑制を狙った新規則を発表した。税率の低い国へ本社を移転する「インバージョン」と呼ばれる行為について税制上の恩恵を減らすとともに、新たな本社移転をこれまでよりも困難にしている。
新規則は即日適用された。
とのこと。 WSJの記事は、月曜までに完了していない現在進行形のディールへの影響を指摘している。

米財務省のプレスリリースはここ。Hat tip: masao@masayoshimu

18 September 2014

ラテンアメリカで所得不平等と貧困レベルの減少がみられていた

Bird and Zolt (2014)によると、ラテンアメリカで所得不平等と貧困レベルが減少し、経済的なモビリティーが高まっている。その理由は中産層の経済的政治的役割が大きくなり、租税を通じて提供する公共財の量と質について発言するようになったからだという。著者たちはこのプロセスを「財政的契約(fiscal contracting)」と呼んで分析している。おもしろい。

11 September 2014

財務省租税条約ネットワークの地図が更新されていた

2014年9月1日現在の地図がこれである。マルチ税務行政執行共助条約の締約国で、二国間租税条約を締結していない国が13ある。85の国・地域をカバーしているとは、このところ、だいぶ増やしたものだ。


《62条約、85か国・地域/平成26年9月1日現在》

26 August 2014

米国のCorporate Inversion,やや沈静化か

8月25日付けのロイター通信が

米国企業が税率の低い国のライバル企業を買収して本拠地を移す「インバージョン」と呼ばれる動きについて、企業合併・買収(M&A)に関する助言業務を手掛けている銀行家や法律家の間では、今後はブームが鎮静化する可能性があるという見方が出ている。
という観測記事をアップしていた。 くわしくはここ

Reuters JP

10 August 2014

東京地判平成24年9月7日 徳島県青少年センターPFI株式会社事件

消費税法30条2項1号の個別対応方式における課税仕入れの用途区分につき、共通仕入れとした事例。税務訴訟資料262号順号12032で判決文を読める。 東京地裁は一般論として
課税仕入れの区分の判断については、同号の文言等に即して、当該課税仕入れが行われた日の状況に基づいてその取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちのどのような取引に要するものであるかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である
と述べる。

平成23年6月の消費税法改正によりいわゆる95%ルールが見直され、個別対応方式をとる事業者が増加している。同種の争いが国税不服審判所で複数生じていることが、税大論叢のこの論文で示されている。

今後、消費税法の解釈適用に関する典型論点のひとつになっていくのだろうか。

課税関係判決

06 August 2014

佐藤健太郎『「平等」理念と政治 ―大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』

日本政治史の本格的な研究書。神戸正雄の思想形成過程を河上肇と対比して論じ(第1章)、臨時財政経済調査会の税制改正案を分析し(第2章)、さらに進んで、知事公選・両税委譲・雪害運動・沖縄救済・地租法改正法案という諸問題を地域の「平等」に関する政治過程として捉え検討する(第3章)。

おおいに蒙を啓かれる。神戸正雄のものはこれまで断片的にしか読んだことがなかった。納税道義に関する彼の関心がどこに由来するか、本書によりはじめて理解できる。「道義院」設立論者であった彼の思想的枠組みは、「対外的な危機意識を背景にした国家的視点、非道義的な気風の排除、富豪への嫌悪感から来る社会主義との一定の親和性」にあったのである(22頁)。この考え方と財産税導入論が結合する。しかも神戸の場合、社会政策的税制論とは一線を画し、給付能力原則に適合した租税理論を展開した(65頁)。本書は、このような神戸学説の読み込みを経て、臨時財政経済調査会の議事がどのような対立軸を有していたかをつぶさに検討する(たとえば141頁)。なるほど。

時代を超えて、税制改正に携わるアクターに対して、「あなたはどういう理念をもって行動しているのですか」、と静かに問いかけるような、奥行きと広がりを感じた。日本史年表を片手に読み進むのも楽しい。


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04 August 2014

親指シフトに再シフト

すでに周知のことであったようであるが、親指シフトが静かに復権していた。

おそまきながらようやくその事実を知り、個人的には、使い慣れたワープロ専用機との「涙の別れ」から13年たってはじめて、親指シフトに復帰できた。汎用性の高いOfficeソフトウェアを使えるので、仕事先に迷惑をかけることもなさそう。


22 July 2014

自動的情報交換―CRSコメンタリーが統合版で出ていた

このところ、米国FATCA施行のインパクトをうけて、租税条約に基づく自動的情報交換の拡充が大きな流れになっていた。そうしたところ、CRS (Common Reporting Standard、共通報告基準)に対する詳細な注釈を含むフル・バージョンのグローバル基準が、OECDのこのサイトでリリースされていた。

本文だけで211頁、Annexを含めると全部で307頁ある文書。読むのに時間がかかりそう。でも、金融情報の国家間交換について検討する上で、これを外すわけにはいくまい。



The Standard for Automatic Exchange of Financial Account Information in Tax Matters calls on governments to obtain detailed account information from their financial institutions and exchange that information automatically with other jurisdictions on an annual basis. The Standard, developed at the OECD under a mandate from the G20, endorsed by G20 Finance Ministers in February 2014, and approved by the OECD Council. 
 

16 July 2014

OECDモデル条約とその注釈の2014年改訂が、公表されていた

これである。主な改訂点は
  • 情報交換条項(group requestの許容など)
  • 芸能人条項(条項の表題もわかりやすくなった)
  • Beneficial owner
  • 排出権取引
  • 退職金
  • 技術的改正
に関するもの。OECD非加盟国のポジションについてかなりの紙面を割いている。恒久的施設の定義に関するものは、入っていない。

なお、この改訂は、BEPS行動計画に関する検討とは別建てであって、2012年改訂以降に公表されてきたいくつかの検討結果を取り入れるという性質のもの。

帰属主義への移行に関して、国税庁が新通達を出していた

ここから見ることができる。主な改正点は、ここにまとめられており、

法人税基本通達について

  • 外国法人の納税義務関係
  • 内国法人の外国税額控除関係
の大幅な新設・改正がある。

また、租税特別措置法通達関係で

  • 外国法人の内部取引に係る課税の特例関係
  • 国外所得金額の計算の特例関係
の新設がある。

税制改正に伴うものなので、パブリック・コメントは経ていないのだろう(行政手続法39条4項)。





04 July 2014

今年の租税法史研究会@Cambridgeのペーパーが、アップされていた

2年に1回、夏なのでそろそろかと思っていたら、ここであった。本になるのが楽しみ。

29 June 2014

IMFのスタッフが、「国際法人課税のスピルオーバー」を公表していた

1.BEPSプロジェクトに関係して、IMFもまとまった文書を出すといわれてきたが、すでにこのサイトで公表されていた。

2.読んでみると、BEPSという言葉の代わりに、スピルオーバーという汎用性の高いコンセプトを用いている。すなわち、スピルオーバーとして

  • 実物・金融フローへの影響
  • 投資その他の実際の経済活動とペーパー上の利益移転の両方を含む法人課税ベースへの影響(base spillover)
  • 各国の税率設定や優遇措置導入などへの影響(strategic spillover)
  • 世界価格への影響
を考慮して(パラ14)、その大きさを計測し、それらがかなり大きいこと、そして、途上国にとって重要であることを示す(パラ19から27)。税収減が必ずしも直接に厚生減を示すわけでないことを付言する(パラ28)ことも、忘れていない。

3.この文書の特色は、IMFの技術協力活動の経験をふまえ、途上国目線にたっていることである。続くくだりでは、途上国にとっての問題領域として

  • 条約漁り(租税条約締結の得失をよく検討すべきこと、締結する場合にはLOB条項で条約漁りに対処すべきこと)
  • キャピタルゲイン(インドのVodafone事件で有名になった間接譲渡の取り扱い、特に天然資源がらみで問題になる)
  • 利子費用控除
  • 移転価格(途上国にcapacity buildingが必要であること、比較可能性検証のために公開データを改善すべきこと)
について詳述している(パラ33から56)。

4.スピルオーバーへの対処策について、正直に困難を指摘するところは、良心的だと思う。対処策として

  • 最低課税(minimum tax)
  • 全世界課税の要素を強化
  • 定式分配(formulary apportionment)
  • 独立企業原則との整合性を考慮した定式的プロフィット・スプリット(formulary profit split)
  • 仕向地主義法人課税
を検討している(パラ57-74)。そのうえで、各国間の相互調整が難しいことを指摘する(パラ75から79)。スタッフ・ペーパーであって、IMFの公式見解ではないぶん、いいたいことがよりハッキリといえるのかもしれない。


01 June 2014

大阪高判平成25・1・18判例時報2203・25 更正理由付記を行動経済学から観る

財団法人東大阪市環境保全公社が受け取ったし尿収集運搬業務などの委託料につき、法人税法上の収益事業性の有無が実体面の争点。更正の理由は、
「貴法人が東大阪市と締結した契約に基づき受ける委託料および・・・受託料並びに・・・補助金は、法人税法2条13号に規定する収益事業の収入に該当します。」
というものであった。

大阪高裁(紙浦健二裁判長)は、地裁判決を覆し、この理由付記が不十分であるとして、更正を取り消した。最判昭和60年4月23日の枠組みによりつつ、帳簿上の記載自体を否定することなしにされた更正であって、「請負業」に関する法人税施行令と実費弁償通達(法人税基本通達15-1-28)に関する判断を経る必要があるところ、判断過程についての記載が一切ないとする。高裁段階で確定。

本件で、委託料が実費弁償かどうかを中心に税務調査を行っていたのであれば、更正を行うに際してその旨を一言付記することは、現場の税務職員にとってもそれほど難しいことではないのではなかろうか。

一般に、理由付記の機能としては、最高裁のいう①恣意抑制機能と②不服申立便宜機能のほかに、学説が③相手方に対する説得機能と④決定過程公開機能をあげてきた。

この③については、英米における行動経済学の最近の実験結果の中にも、これを支持しそうな材料がある。たとえば、この記事の紹介によると、

  • 滞納者に対するレターに「90%が期日前納付であり滞納は少数である」旨を記すと、5.1%納付率があがった
  • 税金の使い道について意見を述べる機会を設けると、コンプライアンスが15%あがった
といった例があるという。応答的規制(responsive regulation)の考え方からすると、理由付記も、納税者の納得を得るためのようとする行政努力の一環としてとらえるべきであろう。

24 May 2014

国連専門家委員会第9回の議事録がアップされていた

2013年10月の国連専門家委員会に提出された文書などは、以前からここで見ることができた。

この会議の議事録であるCommittee of Experts on International Cooperation in Tax Matters, Report on the ninth session (21-25 October 2013)が 、ここにアップされていた。

サービス課税については、議事録の16頁以下で、議論の様子が記されている。それによると・・・
  • パラ50から55 Liaoレポートのプレゼンテーションがあったこと
  • パラ56から62 Arnoldペーパーに基づきtechnical services条項の3つの案が審議され、第1案に支持が集まったが、当該条項の対象となるtechnical servicesを明確に定義することとされたこと
  • パラ63 Kanaを中心に新しい小委員会を組織し、(a) サービス課税について広く検討すること、(b) technical services条項について条文案と注釈案を準備すること
ということである。租税研究2014年1月号11頁で青山慶二教授が解説されていた点が、正式の議事録として明らかにされた。なお、Arnoldペーパーは、2012年夏に公表されていた。次回の専門家委員会は2014年10月末の予定。






17 May 2014

デジタルコンテンツとVAT

東洋経済オンラインのこの記事
海外販売までも消費税、スマホアプリの受難――グーグルプレイを通じた海外販売が課税対象に
という見出しがあり、中身をみてみると、デジタルコンテンツの課税について重要な論点を扱っていた。少なくとも、

  • 輸出免税証明と個人情報保護との相性
  • 外国事業者との関係での課税ルールの整備
が関係する。このうち後者については、政府税制調査会国際課税ディスカッショングループで

  • 2013年11月14日佐藤英明慶応義塾大学教授のプレゼンテーション(同教授の2014年2月講演がさらに租税研究2014年5月号に掲載)
  • 2014年4月4日内外判定の見直しと課税方式の見直しにつき審議

がなされており、対策が急がれる。その後、2014年4月20日には、B2B取引について、VAT Guidelineに対する各国の支持が表明されている。

13 May 2014

Shaviro, Fixing U.S. International Taxationの書評が、出ていた

Shaviroのこの本に対する真剣な書評が、Tax Notes International, May 12, 2014に出ていた。評者はMartin Sullivan。簡潔で、一読の価値あり。

  • Shaviroの主張を要領よくまとめている(選択のマージンが複数あることや、外国子会社所得の課税繰延が問題であることなど)
  • 対立する見解と対比している(Shaviroが外国税額控除をやめて外国税損金算入にすべきであるするのに対し、Avi-Yonahなどが租税条約に違反すると批判)
  • 2013年11月のBaucus上院財政委員長の選択肢Zは、課税繰延をなくしたうえで能動的国外所得を4割だけ所得免除するところ、これがShaviro提案の要請するところを満たしており、かつ、租税条約に反しない、とすること。
現実世界で改革が進まない中、米国の識者が出口を求めている様子が伝わってくる。Shaviro自身のコメントは、ここ。また、会社の居住地や、移行措置としての一括税などに関する紹介は、ここ


08 May 2014

OECD閣僚理事会、自動的情報交換に関する世界標準を支持

2014年5月6日、パリでこの宣言が承認された。2月のGlobal Standardを支持するもの。

宣言の第7項で、
URGE the OECD Committee on Fiscal Affairs, working with G20 members, to proceed rapidly with the elaboration of a) a detailed commentary to help ensure the consistent application of the new single global standard and b) the remaining technical modalities and safeguards including information and guidance on the necessary technical solutions, a standard format for reporting and exchange, and minimum standards on confidentiality; 
といっている。つまり、

  • a) コメンタリーを作成すること
  • b) 技術的様式とセーフガードについて詰めること
をOECD租税委員会に要請した。期限は2014年9月。


06 May 2014

貿易と資金洗浄―The Economist誌によるとかなりの規模

5月1日付け(紙媒体で5月3日付け)のThe Economistの記事の見出しに
貿易は、汚染資金に対する戦いにおいて、最弱の環である(Trade is the weakest link in the fight against dirty money)
とあった。 基本的なやり方は、輸入価格を過少にしたり、輸出価格を過大にしたりして、国内に資金を移転する。たとえば、メキシコのカルテルのためのフロント企業が、適正価格が100万ドルのオレンジを米国輸入者に売り、書類作業にかこつけて300万ドルチャージする。こうして、200万ドル相当分の汚染資金をメキシコに戻すことを隠ぺいする。このような手法は、脱税や外為規制を免れるためにも用いられる、というのである。

記事で触れられているBlack Market Peso Exchangeなどは、遅くとも1990年代には問題にされていたもので、新しい話ではない。国家間で組織している金融活動作業部会(FATF)も、手を焼いている。今回の記事から読み取れるのは、

  • 世界中で起きていること
  • 対策が困難であること(10ドルの商品を9ドルとか11ドルとかで売っている場合に不法送金の手段であることを当局が見抜いてきちんと執行することは到底不可能)

である。一日に税関を通過する貨物の膨大な量と、迅速な通関が欠かせないことを考えあわせると、透明化にはたしかに幾多のハードルがある。


 

20 April 2014

International VAT/GST Guidelinesを、グローバルフォーラムが支持

2014年4月17日と18日に、東京でグローバル・フォーラムが開かれた。
そこで、国境をこえるB2B取引に関するガイドラインに対して、各国政府が支持を表明
次の段階は、B2B取引に関するガイドラインの策定である。

15 April 2014

アジア開発銀行が、アジア太平洋の税務行政について比較分析

アジア開発銀行から

A COMPARATIVE ANALYSIS OF TAX ADMINISTRATION IN ASIA AND THE PACIFIC, Satoru Araki and Iris Claus, April 2014

が出た。行政組織の設計から、人的組織の管理や予算と支出の管理、電子サービス・税務調査・徴収などの納税者とのかかわり、そして紛争処理に至るまで、包括的に比較制度論・運営論を展開している。ここからダウンロード可。

05 April 2014

神戸正雄(1929)による、政府の希望する「租税回避」の例

神戸正雄『財政学体系』380頁(1929年)が、政府の希望する「租税回避」の例として、独身税をあげている。いわく、
又租税回避が不当でないのみならず、立法者の却って之を希望することがある。其は・・・独身税出るに於て結婚を為すことによりて此等の税を免れるが如きである。[旧字を改めた]
これを現代風の言葉でいえば、納税者のインセンティブ効果を立法者が意図的にねらった場合である。

この一節は、「租税の回避及転嫁」と題する章にでてくる。神戸のこのテクストにおける「租税回避」の概念は、きわめて広い。現代日本の法学で通常考えられている租税回避以外のものを、含んでいた。すなわち、

  • 立法上おこなわれるもの。
  • 税法の適用に際して行われるもの。その例として「課税物件の隠匿、密輸入、虚偽の申告」をもあげており、今日の言葉でいう明白な脱税をカバーしている。
  • 転嫁によるもの。
資料種別

04 April 2014

平成26年3月14日東京国税局文書回答(所得税法第9条第1項第10号の非課税所得)

東京国税局が、このような文書回答を出していた。法律解釈に関する部分だけを抜き書きすると
資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における破産手続などの強制換価手続による資産の譲渡による所得は非課税とされていますが(所法9①十、通法2十)、この「譲渡による所得」に配当所得や株式等に係る譲渡所得等は除かれていませんので、強制換価手続による資産の譲渡により生じる配当所得や株式等に係る譲渡所得等も含まれる
というのである。「譲渡による所得」は、譲渡所得のみを指すのではなかった。

東京高判平成25・7・19(法人税法22条4項と不動産流動化実務指針)

X社が、不動産の流動化をし、信託受益権の譲渡をもって信託財産の譲渡と取り扱う会計処理をして、法人税の確定申告。
→金融取引として扱う会計処理をすべきである旨、証券取引等監視委員会から行政指導を受け、X社が過年度の会計処理の訂正。これに伴い、金融庁長官から、課徴金納付命令を受ける。
→X社が、法人税の更正の請求。豊島税務署長は、更正をすべき理由がない旨を通知。その取消を求めて、X社が出訴。
東京地判平成25・2・25、請求棄却。
東京高判平成25・7・19も、原審を維持。

法人税法22条4項の問題として大きくとらえると、金融取引扱いにする実務指針を法人税法が受け入れるか、という争点になる。

課税のタイミングを具体的に追求すれば、本件で譲渡があったかどうかを認定し、権利確定基準をたんたんとあてはめるのが思考の手順であろう。この点に関して、高裁は、
原告については,本件信託受益権譲渡契約及び本件買戻契約に基づく本件信託受益権の各譲渡を含む本件不動産流動化取引及びその終了に係る取引により,それらの取引に関してされた合意により形成された法律関係に従って,本件信託受益権の譲渡の対価その他の各種の収入があったものとして会計処理をしたものであって,それらが実質的には他の法人等がその収益として享受するものであったことや,上記の各合意の内容と取引の実態との間にそごがあったこと等をうかがわせる証拠ないし事情は見当たらない。
と述べている。本件では5年後に買い戻しているが、譲渡担保のような扱いの可能性は、否定しているようである。

02 April 2014

BEPSに関するOECDのWebcast

これ

Live Webcast - Update on BEPS Project
Date: Wednesday, 2 April 2014
Time: 3:00pm - 4:00pm CEST (Paris time)

が、いま終わった。項目は、
• Digital Economy
• Hybrid Mismatch Arrangements
• Tax Treaty Abuse
• Transfer Pricing aspects of Intangibles
• Transfer Pricing and Country by Country Reporting

であり、いろいろと最近の動きがわかった。たとえば・・・
  • 予定どおり行動計画が進んでいること
  • Country-by-country reportingのマスターファイルが、high level overviewであって、templateをふくまないこと
  • Special measuresがarm's length princnipleを破壊することがないこと、これまでと同様に定式分配を排斥することの強調
などが印象に残った。


おそらくもうじき、

http://www.oecd.org/tax/beps-webcasts.htm
で再放送をみることができるようになるだろう。


租税法判例六法に、追補

有斐閣のこのサイト
※『租税法判例六法』の追補をアップしました。 この度,初版(2013年7月)刊行以降の法令改正および重要な判例に関する追補を作成いたしました。
とアナウンスがあり、ここからダウンロードできるようになっていた(K様ありがとうございます)。

帰属主義への見直しに関する法人税法の新規定は47頁あたりから、それに対応する法人税法施行令の新規定は78頁あたりから、みることができる。

01 April 2014

官報に、平成26年度税制改正による政令

3月31日付けの官報、特別号外第6号に、平成26年度税制改正による法律と政令が掲載されていた(O先生ご教示ありがとうございます)。

とりわけ、帰属主義への見直しに関係する法人税法施行令の改正はおおがかりなものであり、新学期の「国際租税法」の授業で要検討。

念のため、これはエープリル・フール・ジョークではありません。

30 March 2014

立命館法學352号

所得税、消費税、相続税など、多くの興味深い論文が掲載されている。


浪花健三教授退職記念論文集

 論     説       
譲渡所得課税における取得費および付随費用ならびに譲渡費用伊 川  正 樹
違法の質・相対性と法的関係の相対性(序説)
――刑法理論の進化と発展のために――
生 田 勝 義
消費税法に<不課税>の概念は必要か?岡 村 忠 生
所得の振替防止法理・果実発生源泉木の法理について小 川 正 雄
相続税と所得税による「二重の負担」奥 谷    健
大審院民事判例集(民集)における判決登載基準について木 村 和 成
公職選挙法第11条第1項第2号の憲法適合性の欠如倉 田    玲
イギリスにおける国会議員リコール法の行方小 松    浩
損害賠償なんか踏み倒せ!
――債務の消滅をめぐる課税関係に関する一考察――
髙 橋 祐 介
違法支出論における債務確定主義の意義と機能谷 口 勢 津 夫
「共通法」2条3条に関する小考趙   慶  済
集団密航助長罪の解釈論上の問題について
――東京高裁平成21年12月2日第9刑事部判決を契機にして――
本 田    稔
「承継的」共犯について
――最決平成24年11月6 日刑集66巻11号1281頁を素材に――
松 宮 孝 明
除斥期間と債務の承認・権利行使
――民法724条後段の20年期間との関係で――
松 本 克 美
個別対応方式における課税仕入れの用途区分の判断基準について三 木    笑
対価概念・仕入税額控除と消費税法の基本構造三 木 義 一
納税者権利憲章の国際的展開
――国際的税務専門家団体によるモデル憲章の紹介を中心に――
望 月    爾
東日本大震災に伴う洋上漂流物のアメリカへの漂着とその処理のための日本政府の資金供与森   道  哉
法人におけるみなし配当金額の計上時期の誤りとその救済可能性安 井 栄 二
実現前権利の課税問題山 名 隆 男
国際法における「裁判拒否」の概念湯 山 智 之
浪花健三教授 オーラルヒストリー
浪花健三教授 略歴・主な業績

22 March 2014

3割・7割論の制度的含意は?

税制調査会の
第1回法人課税ディスカッショングループ(2014年3月12日)資料一覧
に、富山和彦特別委員の興味深い資料がアップされている。

すなわち、

  • 製造業を中心としたグローバル企業(3割未満の世界)
  • 非製造業を中心とした地域密着・ローカル企業(7割超の世界)
があり、それぞれはリンゴとミカンのようにまったく異なる2つの経済圏を成している、というのである。この説得的な事実認識にもとづき、富山委員は、課税のあるべき姿と、成長戦略の課題を導出している。なるほど。

この事実認識の制度的含意が、考えどころである。

  • 「3割未満」のグローバル企業は、有名な大手企業だけでなく、資本金規模では中小のリーディング企業を含む。とすれば、資本金の大小でターゲットをしぼりこむようなやり方では、効果的な区分にならないおそれがある。
  • 「7割超」の地域密着・ローカル企業にとって、より良い経営によって生産性をあげるようにするために、何が効果的なのか。外形標準課税が赤字企業の退出を促すというシナリオは、そもそも競争がないという事実認識と整合的か。新陳代謝を促す施策は、どのような形であれば政治的に受入れ可能になるか。

根本的には、経済活動に対する中立性の確保を目指す以上に、法人税制が果たすべき役割がどの程度あるかが、問われている。

23 February 2014

G20 Sydney

20か国財務大臣・中央銀行総裁会議(2月22日ー23日)の声明が,租税について
 
我々は、正しい租税政策の原則に基づく、税源浸食・利益移転(BEPS)に対する世界的な対応にコミットしてい る。利益を生み出す経済活動が行われ、価値が創出される場所で、利益が課税されるべきである。我々は、引き続き、G20/OECDの税源浸食・利益移転 (BEPS)行動計画を完全に支持し、合意されたタイムテーブルに示された通りの進捗を期待する。ブリスベン・サミットまでに、ますますグローバル化する 経済において、伝統的、電子的及び電子化された企業を含む、全ての産業にわたるBEPSに対処するため、効果的で実用的かつ持続可能な措置を実現すること を開始する。我々は、相互主義に基づく、税に関する情報の自動的な交換のための共通報告基準を支持し、9月の会合において我々の実施計画を詳細にするため に、我々の金融機関を含む、全ての関係団体と協働していく。並行して、我々は、2015年末までにG20諸国間で、税に関する自動的情報交換が開始される ことを期待する。我々は、そうすることが可能な国により当該基準が早期に採用されることを求める。我々は、全ての金融センターに対して、我々のコミットメ ントに適合することを求める。我々は、要請に基づく情報交換のための既存の基準を遵守していない全ての国・地域に対し、迅速に遵守するとともに、更なる遅 滞なく多国間税務行政執行共助条約に署名するよう促す。我々は、フェーズ2の評価を受ける資格を得ていない14の国・地域に、より厳しいインセンティブを 与える準備ができている。我々は、低所得国及び開発途上国に対し、税に関する我々の取組から恩恵を得るよう、関与させるとともに支援を行う。
 と述べている(財務省サイトの仮訳による)。OECDから提出された報告書は,これである(Annexが長いが本文は10頁足らず)。なお,タイムテーブルはこれ

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15 February 2014

シンガポールのBBO事件(2014年2月4日)

Comptroller of Income Tax v BBO[2014] SGCA10である。シンガポールの所得課税は,インカムとキャピタルを区別し,キャピタルゲインを課税対象から除外している。保険会社による株式譲渡益がいずれにあたるかが争われ,非課税のキャピタルゲインとされた。
 
 
 
 
 

08 January 2014

Shaviro, Fixing U.S. International Taxationがようやく出た

彼自身がここで宣伝してる

2015年5月31日追記:アメリカ法2014-2に、一高龍司教授の書評が出た。