10 July 2015

仮想通貨の課税について、博士論文が出ていた

Aleksandra Bal (2014) のここに要約と動画がある。現物はここから読める。そもそも課税すべきでないという彼女の主張と、独蘭英米で実際に課税をはじめているというリサーチとの対比が、えもいえず不思議な感じ。所得課税だけでなく、VATも検討している。

Bitcoinについては、つい先月末にもFATFが規制に乗り出すなど、動きが急。7月9日付けの朝日新聞によると、日本の金融庁も、
ビットコインなどインターネット上の仮想通貨に対し、金融庁が規制に乗り出す。現金と交換できる両替所や取引所を、免許制か登録制にする。新法をつくるか、金融商品取引法などの改正で対応するかはこれから検討するが、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する。
とのこと。日本の税制はその後追いか?

08 July 2015

所得再分配における法ルールと税制の選択について、ノートが出ていた

Zachary D. Liscow, Reducing Inequality on the Cheap: When Legal Rule Design Should Incorporate Equity as Well as Efficiency, 127 Yale L.J. 2478 (2014)
で、すでに1年以上前の2014年5月号だった。

これはいわゆるLaw ReviewのStudent Noteであり、Kaplow and Shavell, Why the Legal System Is Less Efficient than the Income Tax in Redistributing Income, 23 J. LEGAL STUD. 667 (1994) が「法ルールではなく税制だけでいくのが望ましい」と述べてから、Sanchirico教授や、最近のGamage教授の応答などを含め、ずっと議論されている点について、「厚生最大化に関する伝統的な経済学の理解の枠内において、法ルールが公平を考慮すべきである」と主張し、その理由を2点あげるもの。


好意的な書評がこのポストにある。

07 July 2015

NK通達は2回改正されていた

任意組合に関する所得税基本通達36・37共-20は、東京高判平成23年8月4日をうけて、平成24年8月30日付けで改正されたものである。

同通達は、それ以前に、平成17年の課個2-39、課資3-11、課審4-220で、改正されている。平成24年の改正ほど明確ではないが、すでに総額方式を原則とする考え方にたっていたことが、後藤昇ほか編『平成21年版所得税基本通達逐条解説』383頁の次の記述から読み取れる。
(前略)その所得の計算方法は、組合員がその分配割合に応じて、組合の収入、支出の金額、資産、負債を有するものとして計算される所得金額によることを原則とするものである。
この段階の通達は、継続適用を要件として中間方式や純額方式を認める、というものであった。その理由としては、「実際上困難な場合も生ずるので(同383頁)」と解説されていた。

これが、平成24年の上記通達改正により、総額方式により計算することが「困難と認められる場合」で、かつ、継続して中間方式か純額方式かにより計算している場合に、その計算を認める、という具合になり、総額方式を原則とすることが明確に示された。「困難と認められる場合」に関する注があること、経過的取扱いが示されていること、に留意する必要がある。

この記事に追加。

04 July 2015

減る貯蓄、横ばいの消費

第13回税制調査会(2015年7月2日)資料一覧の中に、 「経済社会の構造変化~経済循環の変化~」というマクロのデータが示されていた。以下そのスライドの頁でみていくと・・・
  • 10頁 マクロでみた賃金・俸給が、1990年代をピークに減少傾向
  • 11頁 賃金等の総額が減る中で、社会給付が家計の可処分所得を下支え
  • 12頁 1990年代後半以降、可処分所得は低下傾向、貯蓄低下によって消費は横ばい
  • 13頁 1994年から2013年の間に、全体として貯蓄は34兆円減少
とのことである。人口が高齢化すると、ライフサイクルの中で貯蓄を取り崩して消費にあてるところが、マクロの数字でも大きく出てくる、ということか。

28 June 2015

民主主義は経済成長の原因か

Acemogluたちのこのペーパーが、民主化が長期的に20%GDPを増加させるといっている。要約がこの記事



21 June 2015

英国Diverted Profits Taxの運用について、座談会が出ていた

78 Tax Notes Int'l 880 (June 8, 2015)である。2月9日刊行の議論に続き、E&Yのtax teamが、Tax Analysts記者の鋭い問いに簡潔に答えていた。2月9日の議論はドラフト段階のものだったが、4月からDiverted Profits Tax(DPT)が施行されたのをうけて、今回は、現場の運用がどうなってきているかを、かなり具体的に論じている。

含蓄が深い(深すぎる)点も多いが、おおむね理解できたところでは、たとえば、次のようなことが印象に残る。
  • 英国企業は主にcompliance issueとみており、米国企業は実際に課税リスクを伴う重大なことがらととらえて分析をはじめている。
  • 新しくAPAを結びたいと考える企業が増加。
  • Lower-risk populationと、higher-risk populationとで、HMRCに対してnotificationをするかどうかの対応が分かれる。
  • HMRCのLarge business unitの中のdigital economy teamがdiverted profits teamと改名して、賦課をはじめている。
  • 取引の再構築(recharacterization)に関するスタンスが、BEPS actions 8-10と、HMRCとで異なり、HMRCは租税が主なドライバーだったかにより強く着目。
  • 米国でこの税が外国税額控除の対象になるかについては、a little bit of yes and noという微妙な答え。租税条約で明記するか、米国国内法のあてはめか、いずれかの道があるところ、後者は複雑で米国財務省が公にコメントを出していない。
  • 米国でCFC Rule(Subpart F)を発動すれば、英国のDPTから税額控除できるが、その期間が短く、timing mismatchが生ずるおそれあり。
  • DPTの条約適合性に関してlegal challengesが生ずるかどうかについては、あまり生じないのではないか、なぜならHMRCが適用対象を狭くとってvery significant profits in tax havensの事案に限る運用をするのではないか、という推測。
  • 米国企業会計上、引当金を積むことになるか、uncertain tax positionとして扱うか、という論点。
  • 豪のように他の国もDPT類似の税を入れていくと、BEPS Projectの重要な構成要素であるマルチラテラルな対応が失敗したことになるかについて、1)low-taxed, low-substance situationを特定して課税権を配分する英国のようなアプローチと、2)IP-rich value chainsの利益を分割するやり方を抜本的に改革するアプローチがあり、1)のアプローチをとっただけで失敗といえるかどうかはわからない、という意見。
 UK Government annoucement

17 June 2015

最判平成27年5月26日 住民税の賦課決定の期間制限

この判決が、地方住民税の賦課決定ができる期間制限について、新たな判断を示していた。

個人住民税所得割は、国税としての所得税に準拠しており、前年の所得を対象として課されることになっている。そのため、所得税のほうで変動が生ずると、住民税にも影響が及ぶ。

この事件では、飯塚市長が住民税所得割を増加する賦課決定をした。そこに至る経過は、おおむね次のようなものだった。
  • 平成16年分から平成18年分までの住民税(地方税)が問題
  • 平成15年分から平成17年分までの所得税(国税)につき、納税者が確定申告
  • 平成19年3月14日 所得税につき、飯塚税務署長が更正
  • 平成20年4月22日 国税不服審判所の裁決(更正を一部取消)
  • 平成21年10月6日 前訴判決(納税者の請求を棄却)
その後、平成22年8月23日に、飯塚市長が賦課決定をしたわけである。法定納期限から3年が過ぎていたし、上記の更正からみても2年がすぎていた。しかし、前訴判決からは2年以内だった。

最高裁は次の解釈を示したうえで、飯塚市長の賦課決定が期間制限後にされたもので違法であるとした。
個人の道府県民税及び市町村民税の所得割の課税標準は,前年の所得について算定した総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額とされ(地方税法32条1項,313条1項),これらの総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額は,原則として所得税法における計算の例によって算定するものとされ(同法32条2項,313条2項),所得税の課税標準(所得税法22条1項)を基準としていることから,所得税の課税標準に異動があったときは,その異動した結果に従って個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定をすべきこととなる。しかるところ,所得税の課税標準に異動を生じさせる処分や裁決等が地方税法17条の5の規定に定める期間を経過した後にされることもあり得ることから,同法17条の6第3項は,課税の適正を期するため,上記の所得税の課税標準に異動を生じさせる処分や裁決等がされる一定の場合においてすべきこととなる個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定について,それぞれの場合につき定められた一定の日の翌日から起算して2年間においてもすることができる旨を定めたものであると解するのが相当である。
したがって,個人の道府県民税及び市町村民税の所得割に係る賦課決定の期間制限につき,その特例を定める同項3号にいう所得税に係る不服申立て又は訴えについての決定,裁決又は判決があった場合とは,当該不服申立て又は訴えについてその対象となる所得税の課税標準に異動を生じさせ,その異動した結果に従って個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定をすべき必要を生じさせる決定,裁決又は判決があった場合をいうものと解するのが相当である。

下線を付したところを本件にあてはめると、前訴判決は「当該不服申立て又は訴えについてその対象となる所得税の課税標準に異動を生じさせ」るものではない。だから、前訴判決を起点として期間制限の特例2年をカウントすることはできず、飯塚市長の賦課決定は期間制限にひっかかるということになる。

今後、住民税の執行にあたる地方自治体としては、まず税務署が所得税の更正をしたらそこから2年内に賦課決定をし、その後納税者が所得税を争って課税標準に異動が生じたらその都度異動後の状態にあわせて賦課決定をしていく、という対応が必要になりそうである。

14 June 2015

最判平成27年6月12日(TK航空機リース雑所得区分事件)、「正当な理由」ありと判断

裁判所ウェブサイトのここ。匿名組合(TK)に関する所得税基本通達が、平成17年12月16日付けで改正された。最高裁は、このことをもって
所得区分に関する課税庁の公的見解は変更されたもの
と評価したうえで、平成15年分と16年分につき旧通達に従って不動産所得として申告していたことにつき、
真にA[原告・納税者]の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお同人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になる
として、国税通則法65条4項の「正当な理由」ありと結論した。東京高判平成24年7月19日税務訴訟資料262号順号12204のこの点に関する判断を覆したものである。通達改正が経済活動に及ぼすかく乱効果を小さくするために必要な多方面の努力のひとつを、最高裁として果たしたものといえよう(控訴審の判批・税研178号46頁、49頁を参照)。

なお、この最高裁判決は所得区分につき次のように判示しており、TK課税に関する判例として意義がある。
匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得は,当該契約において,匿名組合員に営業者の営む事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限が付与されており,匿名組合員が実質的に営業者と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には,当該事業の内容に従って事業所得又はその他の各種所得に該当し,それ以外の場合には,当該事業の内容にかかわらず,その出資が匿名組合員自身の事業として行われているため事業所得となる場合を除き,雑所得に該当するものと解するのが相当である。前記・・・の取扱いを定める新通達は,その内容に照らし,これと同旨をいうものと解される。

04 June 2015

消費税法の国際的側面について、日本の論説が公表されていた

国境を越えた役務の提供について、平成27年度税制改正で、消費税法が改正された。これについて、岡村忠生「国境を越えた役務の提供と消費課税」法学教室417号38頁(2015年6月)が公表されていた。

日本の消費税法は、前段階で課税が行われていない仕入れについて、仕入税額控除を認めてきた。このことを、「税制の重大な脆弱性であり、日本の消費税を不完全で遅れたものとしてきた(40頁)」と評価したうえで、改正の内容と射程を、新法令のすみずみに眼を配って論じている。解釈論として残された重要な問題として、「役務の提供が行われた場所(法4条3項2号)」とは何かという「根本的なもの(43頁)」があると指摘。さらに、「消費」という概念を明らかにすることが、「学術研究に課された困難な課題である(43頁)」と述べて締めくくる。

なお、今回の税制改正については、時期を前後して、国税庁が次のガイダンスを公表した。


国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等関係
国内事業者の方へ
国外事業者の方へ

25 May 2015

The Economist、海外資産隠しに対する米国の対応をチクリと批判

この記事である。米国政府は、FATCAをはじめとして、オフショア銀行口座への資産逃避に対抗する強い姿勢をとる反面で、得られたリストがあるのに効果的な法執行をしていない。というのがこの記事の主張。要旨の段落を引用すると、次のとおり。
But the American government has been nowhere near as energetic and effective as it claims. It has been slow to chase tax evaders exposed by data leakers; it has failed to follow promising leads on some of the biggest fish; it has pulled punches with the biggest banks, for fear of destabilising markets; it botched the most prominent prosecution of a Swiss banker to date; and it has treated whistleblowers shoddily.
内部通報者の扱いや、フランス政府のより強い対応との比較など、英国週刊誌の眼からみて米国のやり方がどう見えているかがわかる。

22 May 2015

OECD、「格差縮小に向けて(In It Together: Why Less Inequality Benefits All)」を公表

全体で332頁の政策文書である。日本語版のプレス・リリースが読める。

日本カントリーノートも、リリースされている。1980年代中盤からジニ係数が大きくなってきたことや、相対的貧困率がOECD平均を上回ることなど、すでによく知られたことが確認されている。

格差を是正し、包括的な成長を促すためには、労働がキーである。というのが、政策上の処方箋。このあたりが、再分配そのものを前面に押し出すピケティ「21世紀の資本」とやや異なる。

19 May 2015

米国最高裁、メリーランド州の個人所得税につき違憲判断

Comptroller of Maryland v. Wynne 575 U.S. ___ (2015)

メリーランド州の個人所得税には、州(state)の所得税と、カウンティー(county)の所得税がある。居住者が、他の法域で稼得した所得について、他の法域で納税すると、その税額は、州税からは税額控除できるが、カウンティーの税からは税額控除できない。これが州際通商を阻害し、連邦憲法のdormant Commerce Clauseに反するとされた。5対4の判決。

判決直後からいろんな論評がでている。たとえばこれ。もともと、おなじみの3名がAmicus Briefを書いていた


[2015年6月3日追記] この判決について、JOTWELLにコメントがでている。



16 May 2015

五月祭、アルコールパスポート制度が実施されていた

五月祭(大学の学園祭)で、お酒を飲むためには、アルコールパスポート(アルパス)が必要になっていた。免許証や学生証で年齢確認をして、リストバンドを発行する。それを身に着けていなければ、模擬店でお酒を買うことはできない。未成年者飲酒や、飲酒事故を防止するための措置。すでに昨年の5月祭でも実施していた。キャンパス外で買ったお酒をキャンパス内に持ち込む場合にも必要だとしている点は、enforcementの苦労がありそう。

公式マスコット

08 May 2015

Journal of Tax Administrationが発刊されていた

このサイトで見ることができる。第1巻第1号(2015年)末尾の文献ガイドは、英語圏で2014年に出た論文27本を要約しており、なかなか有益。

07 May 2015

税大講本の消費税法が、平成27年度版になっていた

このウェブページである。凡例をみると、「平成27年1月1日現在適用されている法令及び通達によって作成した」とある。したがって、平成27年度税制改正による「電子通信役務の提供」に係る内外判定基準の見直しや、リバースチャージの導入、登録国外事業者制度の創設のように、平成27年10月1日からの適用を予定している新ルールはカバーしていない。

税務大学校

01 May 2015

VAT比較法の教科書、第2版になっていた

もともと定評があった本であるが、第2版はさらにパワーアップした。NZをはじめとする新世界モデルの優位がはっきりとみえてくる。各国の判例も、学習に活き活きとした感じを与える。Wei Cuiさんが著者に加わって、中国の増値税に末尾の一章を割くなど、新工夫。

Value Added Tax

29 April 2015

Asian LII、かなりつかえる

Asian Legal Information Institute, Free access to Asian Lawで、アジア各国の法律一次資料を英文で読むことができる。たとえば日本法はこれ。かなりつかえる。

Hat tip: Tosh Weyman

AsianLII

23 April 2015

平成27年度税制改正のポイントと評価

佐藤英明先生と上西左大信先生の対談が、税研180号(2015年3月)にのっていた。2月13日時点のインタビュー。入念な準備がうかがえるやりとりであり、かなり突っ込んだ評価を加えている。

論点は今回の税制改正の全般に及んでおり、有益な指摘が多い。ほんの数例をあげるだけでも・・・

  • 確定拠出年金法の改正に伴って3号被保険者に税制上の措置が拡大されること、そして、個人単位での課税のため妻の年金は妻の分だけとなり、結果的に給付時にも課税されないことが多くなること、の指摘
  • 地方拠点強化・雇用促進の租税特別措置について、「企業が行きたいほうに背中を押すものでなければ効果を発揮しません」との指摘
  • スキャナによる書類保存制度に関連して、「税務調査や犯則調査についてコンピュータのデータにどのように対応するかは、法律ではほとんど決まってないですね」との指摘

この対談収録ののち、税制改正法案は、2月17日に国会に提出され、3月31日に成立している。

リンクを張ろうとおもってウェブサイトを検索してみたが、この対談部分は一般公開していなかった。広く読まれるべきものであるだけに、やや残念。

機関誌「税研」

22 April 2015

企業内法務の仕事と伝統的弁護士の仕事

柏木昇先生の表記の文章が、法学教室412号(2015年1月号)160-163頁にのっている。達意の文章である。
企業内法務の仕事が企業内法務に実際に携わっている当事者以外にはいまだにほとんど理解されていないらしい
という認識に基づき
法律嫌いで商社に就職した私がどうして血湧き肉躍る企業内法務の仕事の面白さに気づいたか
ということを説明する。文章の目的が明確。これに続く実話に臨場感があり、ひきこまれる。
  • 入社5年目、テキサスの倒産事件。日米の法運用がまったく異なっていた衝撃。
  • インドネシアの鉱山開発融資で、契約交渉の実戦。先生は何歳だったのだろうか。
引き出される教訓に、説得力がある。
  • 営業も財務も法律も「たいした違いはない」、つまり、それぞれの専門から取引の成立に取り組んでいく仕事であること
  • 法律知識以外に、取引知識と財務・経理・税務知識が重要であること
  • 専門家との人脈が大事であること
「意見を言うだけでは仕事は終わらない。」 いかにも先生らしい言葉である。

21 April 2015

今年の租税条約の判例研究会は6月に

なんだか恒例になっているが、ことしはウィーンで6月11日から13日に開かれる。日本の大学はセメスターの中途、授業を休講にすると苦しい時期で、なかなか出ていきにくいのが難点。でも、招待プログラムを見ているだけで、世界各国でいろいろな裁判例が登場していることが感じられる。

17 April 2015

Global Developments and Trends in International Anti-Avoidance Introduction Movie

これである。
この4分の動画をみるだけで、何が起こったか、雰囲気がよくわかる。

hat tip: Stef van Weeghel.

13 April 2015

租税法入門、平成27年度税制改正の補遺

平成27年度税制改正(2015年3月)のうち,特に『租税法入門』の記述に関係する重要なものとして,4点をアップしていただいた。有斐閣のこのページである。

租税法入門

11 April 2015

IMFと日本財務省共催のアジア租税会議、東京で開かれる

The Sixth IMF-Japan High-Level Tax Conference for Asian Countries "Emerging Tax Issues in Asia"である。途上国目線でみた国際課税の課題や租税条約について、報告と議論がなされた。

その公開セッションに出席する機会があった。途上国は最新のルールを導入し執行することを助言されがちであるところ、まずもって、全体として効果的な租税制度と租税行政を構築することが大事だ、というメッセージがよく伝わった。たとえば、移転価格課税をやみくもに強化する以前に、まずは税務執行の足腰をきちんとする、といったような課題である。法にのっとった適正な執行態勢は、ビジネスのためのインフラとして重要である。このことは、企業からのプレゼンターの意見からも、感ぜられた。

以前に注目したスピルオーバーに関するペーパーは、IMFのボードで議論して公式の位置づけを与えられたものであるとわかった。また、租税条約についても、2010年以降に香港が租税条約網を大きく拡大し、モンゴルが濫用のみられた4条約を破棄したことなど、種々の興味深い動きを知ることができた。租税条約上の自動的情報交換を実施するための執行コストに、途上国が対応できるかという論点も、はっとさせられる。


08 April 2015

今年の重要判例解説

ジュリスト1479号「平成26年度重要判例解説」が出ていた。租税法判例の動きを佐藤英明教授が網羅的に解説。とくに取り上げられた6件は、固定資産税2件のほか、ライブドア損害賠償課税事件や、IBM事件、日産自動車事件、Yahoo事件で、いずれも注目の事件。それぞれに、読みごたえがある。


平成26年度重要判例解説

05 April 2015

最判平成26年12月12日延滞税が発生しないとされた事例

簡単な時系列にすると、次の経過をたどった。
  1. 納税者が法定納期限内に相続税を完納
  2. 市川税務署長が減額更正、過納金を還付
  3. 市川税務署長が増額更正、納税者が増差本税額分を納付
争点は、1の法定納期限の翌日から延滞税がかかるか否か。解釈論としては、国税通則法60条1項2号「納付すべき国税があるとき」にあたるか否かが問題。

東京地判平成24年12月8日と、控訴審である東京高判平成25年6月27日は、延滞税がかかるとした。そのロジックは、次のようなものだった。
  • 2の減額更正により、減額された税額に係る部分の具体的な納税義務が遡及的に消滅する
  • その後に3の増額更正がされると、増額された税額に係る部分の具体的な納税義務が新たに確定する
  • よって、新たに納税義務が確定した増差本税額について、更正により「納付すべき国税があるとき」に該当する
これに対し、最高裁第2小法廷は、本件の事例判断として、延滞税がかからないとした。いわく、
本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分は,本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増額更正に係る増差本税額の納期限までの期間については,法60条1項2号において延滞税の発生が予定されている延滞と評価すべき納付の不履行による未納付の国税に当たるものではないというべきであるから,上記の部分について本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しないものと解するのが相当である。
下線は引用者による。「当たるものではない」ことの論証として、 第2小法廷は、本件の事実関係につき、
  • 納税者として回避し得なかったこと
  • 税務署長は相続土地の評価につき減額更正をしたにもかかわらず自らその処分の内容を覆して相続土地の評価に誤りがあったことを理由に税額を増加される判断の変更をしたこと
を指摘する。そして、本件の場合において延滞税の発生を認めると「明らかに課税上の衡平に反する」と評価し、「納付の遅延に対する民事罰の性質」を有する延滞税の趣旨・目的に照らし、延滞税の発生は法が想定していないとする。

この点につき、千葉補足意見は、「特殊な事情」あるいは「例外的な事案」であることを補足する。これに対し、小貫意見は多数意見の結論に賛成するが、理由が異なる(国税通則法61条1項1号の特例による控除期間があった事案であったため結果的に多数意見と結論が同じになった)。

学説では、谷口勢津夫『税法基本講義第4版』(弘文堂2014年)110頁が、還付に関する法律関係を論ずる箇所で、納税者から還付請求申告書の提出があったときに成立または確定するという解釈を退ける文脈で、
誤って過大な金額が還付された場合、その後にその誤りが発見され、修正申告または課税処分がされたときは、納税者はその金額のうち納付すべき税額に相当する部分に加えて、延滞税をも納付しなければならなくなる。
から、当該解釈をとるべきでないとしていた。

12月12日の最高裁判決ののち、2015年1月、国税庁は同様の事案に係る延滞税についてアナウンスを出した

26 March 2015

もうひとつのシュンペーター像

池上岳彦編『現代財政を学ぶ』(有斐閣2015年)36頁のコラム「もうひとつのシュンペーター像」は、想像できないほど人間くさいシュンペーターの日記を紹介している。母親と妻アンナに先立たれた彼は、毎日、彼女らへの祈りの言葉を丸で囲んで書いたという。「私を助けたまえ。」「数学ができない、助けてくれ。」「自分はバカになったようだ、助けてくれ。」などなど。

このコラムには、塩野谷祐一「シュンペーターの野心―その人生と学問」という2007年の講演のリンクが付されている。これである。読んでみると、これがまたおもしろい。国際ワークショップもあったようだ。

それにしても、自分の日記がこうして広く人々の眼に触れることを、シュンペーター本人は予想していたのだろうか。

21 March 2015

PPL Corp. & Subsidiaries v. Commissioner, 133 S.Ct.1897 (2013)

外国税額控除に関する米国連邦最高裁判所の判決。英国で保守党政権が国有企業を民営化したのち、1997年に政権をとった労働党がwindfall taxを立法化して、1回限りの課税を行った。これが、米国法上、外国税額控除の対象となるかどうかが争われた。米国連邦最高裁は、このwindfall taxは古典的な超過利潤税であるとして、外国税額控除を認めた。

浅妻教授の判例解説がアメリカ法2014-1に出ている。日本におけるガーンジー島事件最高裁判決との比較もされている。この公開ページでは、アメリカ法に出ていない部分も読め、リンクも張ってくれている。

この事件の存在を念頭におくと、2014年に英国がDiverted Profits Taxの導入をアナウンスした直後に、同税が米国で外国税額控除の対象となるかどうかが議論されたことも、きわめて自然なことに見える。対象となると論ずることで、BEPS行動計画へのコミットメントを強めようという力学が働いているのが、歴史の現時点におけるおもしろい磁場である。

20 March 2015

インドでSony事件、納税者勝訴

現地会社の広告宣伝費がbright line testの水準を超過しているとして、移転価格課税。
裁判所はこれを取り消した。Sonyだけでなく、DaikinやHeier, Reebok, Canonなどの事件も併合したcommon judgement。
ここから読める。

HIGH COURT OF DELHI AT NEW DELHI
IITA No. 16/2014
Reserved on: 5th November, 2014
Date of Decision: 16th March, 2015

18 March 2015

GTTCとVogel on DTC

租税条約の注釈が続々と新しくなっている。IBFDのオンラインでGlobal Tax Treaty Commentariesが出てきたし、Klaus Vogel on Double Taxation Conventionsが第4版になった。いずれも国際的な共同作業であるところが、時代を感じさせる。BEPSプロジェクト後の租税条約の世界はかなり変化するだろうが、行く末について考えていくには、現時点までの到達点を知ることがまず必要。

17 March 2015

インドビジネスと移転価格

財務総研の2014年度インドワークショップで、2014年12月3日、双日オートモーティブエンジニアリング代表取締役社長が報告。その議事録を読むと、インドにおける移転価格課税の深刻さをとりあげており、2013年3月末から事前確認制度(APA)が導入されたことへの期待が語られていた。

16 March 2015

東京高判平成26年4月24日 リグは「船舶」にあたるか

海洋掘削等の事業を行う内国法人が、パナマ子会社から、海洋掘削の作業の用に供するリグの貸付けを受け、その対価を支払った。これが日本の所得税法上、「内国法人に対する船舶・・・の貸付けによる対価」(161条3号)として源泉徴収の対象となるかどうかが争われた。東京地裁、そしてその控訴審である東京高裁は、ともに、この3号にいう国内源泉所得にあたるとして、源泉徴収を肯定。

原告は、本件リグは船舶ではなく、減価償却資産としての「機械及び装置」(161条7号ハ)にあたり、専ら国外において行う業務の用に供されていたから,国内源泉所得にあたらないと主張していた。裁判所が「機械及び装置」該当性を論じなかった理由として、浅妻章如・判批・ジュリスト1477号(2015年3月)8頁、9頁は、「船舶」に関する規定は「機械及び装置」に関する規定の特則である
という構造が判旨の前提にあると指摘する。

国際運輸業で船舶を運航する事業については、古くから相互主義免税のルールが発展してきた。これに対し、所得税法上の源泉徴収では、船舶の所在地や業務関連性を問わず、貸付けを受ける者が内国法人であるかどうかに着目して国内源泉所得に取り込んでいることに気づかされる。

15 March 2015

大阪地判平成25年6月18日 問屋と消費税

この判決である(確定)。原告は、大阪市中央卸売市場で牛枝肉の卸売業を営んでいた。原告は、出荷者から販売の委託を受け、せり売りで買受人を決定する。原告は卸売金額の3.5%の委託手数料を受け取るにすぎず、残りは出荷者の取り分になる。

原告の立場が商法上の問屋(商法551条)であることに、当事者間で争いがない。

出荷者 ―――原告
(委託者)    (問屋)
           ↓
          買受人
          (相手方)

すなわち、原告と相手方との外部関係は、問屋が売買契約の当事者となる。委託者と原告との内部関係は、委任関係となる。

大阪地裁は、消費税法13条につき、
資産の譲渡等を行った者の実質判定は、その法的実質によるべきものと解される(このように解すべきことは、当事者間に争いがない。)。
としたうえで、原告が牛枝肉の譲渡を行ったものと判断した。その帰結として、消費税法39条1項の貸し倒れによる消費税額の控除の適用を、原告に対して認めた。その際に、次の点を判断要素としてあげている。
  • 原告が売買代金回収リスクを負うこと
  • 売買契約の締結に出荷者が特段の関与をしていないこと
  • 買受人に対する瑕疵担保責任を負うのも原告であること
この事件について、仲谷栄一郎=中島真嗣「問屋(コミッショネア)の税務問題(上)」NBL1029号(2014年7月)70頁、76頁は、仕入税額控除がどうなるか、という問題を提示している。この点、西山由美・判批・税研178号(2014年11月)227頁、229頁は、ドイツ売上税法3条3項が、委託者と問屋の間で委託物品販売の課税取引をみなす立法的解決を講じていること、連続取引について中間の取引を省略するルールもあること、を紹介する。日本法はそのような特則を欠くから、まずは解釈論によって、消費税法の取引の鎖をつなげていくことが課題である。その意味で、信託・遺産・組合について「『私法上の帰属』の精確な考察」に立脚した課税要件規定の設定と適用が不可欠であるという主張(藤谷武史「所得課税における法的帰属と経済的帰属の関係・再考」金子宏ほか編『租税法と市場』(2014年)184頁、200頁)は、問屋についても妥当する。

14 March 2015

ドイツ租税法における外国事業体の取り扱い

2015年1月刊行のこの論文が、ウェブサイトにアップされていた。この論文のドイツ法分析によると、ドイツ法人税法において納税義務を負う形態の類型(Typ)と比較(vergleichen)できる外国(=ドイツ以外の国)の形態は、法人税の納税義務を負う形態として扱う。この判断枠組を「類型比較(Typenvergleich)」という。この枠組が判例で採用され、散発的な批判を招きながらも、実務および学説によって支持されるに至っているという。本論文は、この様子を描き出しており、参考になる。

13 March 2015

東京地判平成25年5月30日判例時報2208号6頁 非永住者にあたるとした例

川口市と米国東部をいったりきたりしていた個人につき、日本に住所がある(=居住者である)とし、さらに、非永住者であると認定した事例。

本件の当時、非永住者の定義は、
居住者のうち,国内に永住する意思がなく,かつ,現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人をいう。
とされていた(所得税法2条1項4号、下線は引用者による)。東京地裁は、本人の滞在日数や、家族の居住状況、米国永住権の取得、父の墓の米国への移築など、本件にあらわれた事実を総合考慮して、納税者が日本国内に永住する意思を有していなかったと認定した。

平成18年度税制改正で、非永住者の定義は次のように変わり、永住意思が要件でなくなった。
居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう。
したがって、現在では、上の争点は問題にならない。また、本件の納税者は日本国籍を有していたから、現在のルールでは、非永住者にあたる余地がない。こうして、本判決の意義に現在における意義としては、「もっぱら内心の意思が問題となる場合において、それを多数の外形的事実から推認することによって認定するという一般的な判定手法を示した事例」 (宮崎裕子・判批・税研178号175頁、177頁)ということになろう。

なお、本判決は、他の争点についても判示している。たとえば、住所認定の手法として、従来の判例を踏襲している。また、オルゴールの譲渡から生ずる所得が「国内にある資産の譲渡により生ずる所得」として国内源泉所得にあたるか、といった点も争われ、国の立証が足りないとしてこれにあたらないしている。判決へのリンク

12 March 2015

Aloe Vera事件がまだ続いていた

1996年の日米合同調査に端を発する米国IRSに対する損害賠償請求事件。2007年2月2日の判決で終局したわけではなかった。その後、控訴→差戻し→第二次控訴→差戻しをへて、2015年2月10日に次の判決がでていた。Aloe Vera of Am., Inc. v. United States, No. CV-99-01794-PHX-JAT, 2015 U.S. Dist. LEXIS 16605 (D. Ariz. Feb. 10, 2015)である。

米国IRSが日本の国税庁に同時調査の提案書を送った中で、1991年と1992年に約32ミリオンドルの未申告米国所得があるとの推定を記載していた。アリゾナ地裁のTeilborg裁判官は、この点が虚偽であり、米国は虚偽であることを知りつつ情報を開示したとして、1000ドルの法定額による損害賠償を認めた。

事実認定の記載が詳細であり、日本側で1997年10月にメディアで報道されたことや、その後一時的にIRSが日本との情報交換を停止したこと、国税庁が租税条約情報の漏洩防止策を講じたのちにIRSが停止を解除したことなども、判決文に記されている。

11 March 2015

最判平成27年3月10日 外れ馬券事件

刑事事件で、第三小法廷が検察官の上告を棄却した。「本件事実関係の下では」という限定つきで、馬券の払戻金を雑所得に区分し、外れ馬券を含むすべての馬券の購入代金を必要経費として控除を認めた。

事案は、次のようなものである。
被告人は,毎週土日に開催される中央競馬の全ての競馬場のほとんどのレースについて,数年以上にわたって大量かつ網羅的に,一日当たり数百万円から数千万円,一年当たり10億円前後の馬券を購入し続けていた。被告人は,このような購入の態様をとることにより,当たり馬券の発生に関する偶発的要素を可能な限り減殺しようとするとともに,購入した個々の馬券を的中させて払戻金を得ようとするのではなく,長期的に見て,当たり馬券の払戻金の合計額と外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の合計額との差額を利益とすることを意図し,実際に本件の公訴事実とされた平成19年から平成21年までの3年間は,平成19年に約1億円,平成20年に約2600万円,平成21年に約1300万円の利益を上げていた。
第三小法廷は、所得税法34条1項にいう「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」にあたるかどうかの判断基準として、
営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,文理に照らし,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
と判示した。 これを本件の事案にあてはめて、上告棄却とした。

大谷裁判官の意見があり、ふたつの意味で興味深い。
  • 「外れ馬券の購入代金を必要経費として控除できるとした原判決には法令違反がある」といいながら、「本件事案の特殊性に鑑み、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない」として、法廷意見と結論を同じくしている。この意見によると、本判決は「事案の特殊性」による救済判決という位置づけになりそうである。
  • 立法論として、「課税対象を明確にして妥当な税率を課すなどの特例措置を設けることも必要と思われる」と指摘している。きちんと立法論をするためには、課税のみならず、公営ギャンブルの収支に関する財政法的な考察が必要であろう。馬券配当の非課税化を訴える業界の声があることにも、注意が必要である。
判決当日に広く報道されており、これから多くの評釈が出てくるだろう。


【2015年3月12日追記】
国税庁が「最高裁判所判決(馬券の払戻金に係る課税)の概要等について」で、所得税基本通達34-1を改正する予定であるとアナウンス。

10 March 2015

東京地判平成25年11月19日判例時報2219号33頁 外国税額控除の手続要件

所得税法95条2項による控除限度額の繰越使用が、手続要件を満たさないとして否定された事例。原告は個人納税者であり、デラウェア州法に基づくLPSを組成する旨の契約を締結して、同契約に基づく分配金の受領や持分の譲渡について、外国所得税を納付していた。
  • 平成19年分の所得税の確定申告時に、控除限度額に余裕があった。
  • 平成20年分の所得税の確定申告には、外国税額控除に関する明細書の添付がなかった。
  • 平成21年分の所得税の確定申告で、平成21年分の控除限度超過額が生じたので、平成19年分の国税の控除余裕額を繰越使用した。
渋谷税務署長は、平成20年分の所得税の確定申告書に所得税法95条6項所定の事項の記載等がなかったから、同項の手続要件を満たしておらず、平成21年分の所得税について95条2項に基づく外国税額控除ができないとして、更正。納税者がこれを争ったのが本件である。

東京地裁は、繰越を認めなかった。判決文は裁判所ウェブサイトで読むことができるが、手続要件の趣旨について、次のように述べる。
所得税法95条6項は,同条2項の規定は,繰越控除限度額に係る年のうち最も古い年以後の各年について当該各年の控除限度額及び当該各年において納付することとなった外国所得税の額を記載した確定申告書を提出した場合に限り適用するものとしているところ,当該要件は,・・・・・同条2項に基づき控除し得る額が前3年以内の各年の控除限度額及び当該各年において納付することとなった外国所得税の額のそれぞれに基づいて計算されることを踏まえて,その計算の基礎となる控除限度額及び外国所得税の額を当該各年分の確定申告書に記載する方法で逐次明らかにさせておくとともに,納税者に従前の控除余裕額を翌年以降の繰越使用の対象とする意思があることを各年分の確定申告書上に明らかにさせることよって,税額の計算の安定を確保し,もって租税法律関係の明確化を図ったものと解される。
これをうけて、6項の解釈として、次のように判示する(下線は引用者による)。
そうすると,所得税法95条6項にいう「各年」とは,「繰越控除限度額に係る年のうち最も古い年」,すなわち,同条2項に基づく控除を受けようとする年の前年以前3年以内であって同法施行令224条1項に基づきその年の控除限度超過額に充てられることとなる国税の控除余裕額の存在する年のうち最も古い年を始まりとして,それ以後同法95条2項に基づく控除を受けようとする年までの各年を意味するものと解すべきである。また,このような解釈は,「各年」につき開始時点以外には明確な限定を付していない同項の文理に照らしても自然なものということができる。

つまり、「各年」とあるのは、平成19年だけでなく、平成20年も意味するというのである。これを本件にあてはめて、次のように結論した。
原告は,平成20年分確定申告書には,その添付書類を含めて,同年の控除限度額及び同年において納付することとなった外国所得税の額を記載していないのであるから(前記前提事実(2)ア),同条6項所定の同条2項の適用要件を満たしたものということはできない。
東京高判平成26年3月26日で、控訴棄却。

本件の係争年分のあとになるが、平成23年法律114号による改正で、当初申告要件が廃止された。現在の所得税法95条1項には5項に手続要件があり、確定申告書だけでなく、修正申告書または更正請求書で書類添付をすれば足りる。したがって、現行法の下では、平成21年分の確定申告をする時点で、あわせて、平成20年分につき修正申告か更正請求をしてそこで記載と書類添付を行う、という形での追完が可能であろうか。

09 March 2015

口座情報透明化の抜け穴

2015年2月28日付のThe Economist(印刷版)で、Tax evasion: Leaks on tapと題する記事が載った。米国FATCAに続くOECDの共通報告基準(Common Reporting Standard, CRS)の進展をカバーするものであるが、抜け穴を利用する例も報告している。銀行口座が報告の対象になるのなら、それ以外の金融商品に転換する、という企てである。すでに、米伊でprivate placement life insuranceなる商品への調査がはじまっているという。

08 March 2015

東京高判平成25年3月14日訟月59巻12号3217頁 法人税 事前確定届出給与の非該当例

1.事案の概要

平成20年11月26日の株主総会で、年間合計8000万円の範囲内で、取締役会に一任。取締役会は、
  • 代表取締役Aについて、各月180万円、冬季賞与500万円、夏季賞与500万円
  • 取締役Bについて、各月140万円、冬季賞与200万円、夏季賞与200万
と決めた。12月22日に、事前確定届出給与の届出。職務執行期間は平成20年11月27日から平成21年11月26日まで。

ところがその後、平成21年7月6日の臨時株主総会で、業績悪化を理由に夏季賞与の減額を次のとおり決議。
  • Aについて、夏季賞与を250万円
  • Bについて、夏季賞与を100万円
としたわけである。会社がこの減額について法人税法施行令69条3項の変更届出をしないまま、冬季賞与は法人税法34条1項2号に該当するとして損金算入の確定申告をした。川崎北税務署長が、損金不算入とする更正。これを争ったのが本件である。

東京地判平成24年10月9日訟月59巻12号3182頁、請求棄却。会社が控訴したが、東京高裁も原審を引用して控訴棄却。確定。

2.裁判所の判示

東京地裁は一般論として、次のようにいう(下線は引用者による)。
内国法人がその役員に対してその役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の事前の定めに基づいて支給する給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合に,当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは,特別の事情がない限り個々の支給ごとに判定すべきものではなく,当該職務執行期間の全期間を一個の単位として判定すべきものであって,当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における全ての支給が事前の定めのとおりにされたものであるときに限り,当該役員給与の支給は事前の定めのとおりにされたこととなり,当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における支給中に1回でも事前の定めのとおりにされたものではないものがあるときには,当該役員給与の支給は全体として事前の定めのとおりにされなかったこととなると解するのが相当である。
そして、本件について、冬季賞与は事前確定届出給与に該当しないとした。また、納税者の主張に応答する中で、職務執行期間を複数の期間に区分し、各期間の対価を個別的に定めたものであると会することができるなどの「特別の事情」は、本件では認められないと述べている。

3.ふたつの理由づけ

東京地裁は上記の一般論に続く部分で、一般論を支えるふたつの理由づけを示す。
  • 株主総会の決議の趣旨として、全期間を一体的に定めたと解されること
  • もし個々の支給ごとに判定すべきものとすれば、事前の定めに複数回にわたる支給を定めておき、その後、個々の支給を事前の定めのとおりにするか否かを選択して損金の額をほしいままに決定するなどの弊害が生ずるおそれがないということができないこと
後者の理由は、一般論を導き出すための論証としてどのくらい強いものだろうか。業績悪化事由があれば減額を認めるのがポリシーである以上、実体面で濫用があったというのではなく、所定の手続を履行しなかったことがまずかった、ということであろうか。

これに対し、前者の理由をつきつめていくと、決議の内容を工夫することで、事前の観点から経営者報酬を合理化しインセンティブを引き出す、という課題に、法人税法のほうから接近する道が見えてくるようにも思われる。



08 February 2015

Amsterdamで新しい国際課税修士課程プログラム

アムステルダム大学がIBFDと共同で、1年コースを開設する。ここにリンクがある。夏の運河の写真がなつかしい。



16 January 2015

所得税法39条の適用範囲

ある優秀な学生の方から、所得税法39条の適用範囲について質問をいただいた。質問というか、鋭いご指摘である。私なりに定式化すると、問題はこうである。

Aさんが八百屋を営む事業所得者であり、店で売っていた大根を自分で食べた。このとき、たな卸資産を「家事のために消費した」として、39条の適用があるのはわかる。じゃあ、大根を食べたのがBさんだったらどうか。

うーん。これはおそらく、「家事のために消費した」という規定の解釈適用の問題ではないか。ここで、主語は「居住者が」となっており、この例ではあくまでAである。

したがって、BがAの子どもであって、Aと生計を一にしているような場合には、Aが「家事のために消費した」といえるように思われる。やや遠い材料であるが、消費税法基本通達5-3-1も、「家事のために消費し(消費税法4条4項1号)」の解釈として、「個人事業者又は当該個人事業者と生計を一にする親族の用に消費し・・・た場合をいう」としている。

これに対し、BがAとは無関係の第三者である場合、Aが「家事のために消費した」というのは難しい。もっとも、たとえばBがAの友人であって、AがBに大根を贈与したといえるような場合には、所得税法40条1項の適用により、やはり総収入金額算入になるであろう。その場合、39条を適用した場合と結論は変わらないことになる。沿革的にも、昭和40年全部改正前、39条と40条はひとつの条文として規定されていた。

なお、この例からふつふつと実感されるのは、39条が役務の提供をカバーしていないという歴然たる事実である。散髪屋さんが自分の子どもの髪を切っても、39条の「たな卸資産を家事のために消費した場合」には当たらないのである。

いちおうこう考えてみたが、質問をくださった方は、どう考えられるであろうか。今度機会があれば、うかがってみたい。