11 October 2016

NIRA「わたしの構想」No.26が、でていた

今なぜ軽減税率なのか?

「わたしの構想」No.262016/10発行
識者:マルコ・ファンティーニ(欧州委員会 税制・関税同盟総局 VAT部門長)、マリー・パロット(ニュージーランド内国歳入庁政策戦略部門 シニア・ポリシー・アドバイザー)、ボー・ロススタイン(オックスフォード大学ブラバトニック公共政策大学院 教授)、大竹文雄(大阪大学社会経済研究所 教授)、星 岳雄(東京財団 理事長、スタンフォード大学 教授) *原稿掲載順企画:加藤淳子(NIRA 総研 客員研究員、東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
今なぜ軽減税率なのか?
 政府は消費増税時期の再度の先送りを表明。2019年10月の引き上げの際、同時に軽減税率制度を導入するとしている。軽減税率導入の目的とされるのが、「逆進性」の緩和だ。消費税には所得や資産に関係なくすべての人に同じ税率がかかるため、所得の低い人ほど、税負担が重くなる逆進性があるとされる。しかし、すでに軽減税率を導入している欧州諸国の専門家は、他国には導入しないよう助言してきた。軽減税率は本当に逆進性の緩和に有効なのか。わが国の実情に合う制度なのか。検討する。

08 October 2016

東京地判平成27・9・29(神鋼商事事件-受贈益)

この判決。次の事案において受贈益の課税を肯定。
  • 平成19年3月、タイ関連会社の新株引受け。
  • 他の株主が新株予約権を行使せず、持株割合が29%から97%に上昇。
  • 純資産価額で一株あたり3万2461バーツの新株を取得し、額面の25%たる250バーツを払い込み。
  • 差額を受贈益とする更正処分。
なぜこういう取引をしたのだろうか?判決文からは、タイの外資規制緩和があったことがわかる。いわく、
平成12年から、タイ人及びタイ法人以外の企業が発行済株式の50%以上を保有している企業であっても、資本金を一定額以上とすれば、参入できる業種が制限されないこととなった
とのこと。増資し、支配権を確立するというビジネス上の理由があったことがうかがわれる。関連して、ジェトロのこのサイト

わからないのは、 どうして具体的にこの手法をとったか。株式価値と払込金額の差額がこれだけ大きいと、受贈益の認定リスクはあった(いうまでもないが、払い込まれた金額が資本等取引として損益計算から外れるというのはあくまで新株を発行する会社側の話であり、法人株主たる親会社側についてはもろに損益計算の話になる。金子宏ほか『ケースブック租税法第4版』458頁)。このリスクを避けるために、プランニングの可能性はなかったか?すぐに思いつくだけでも、たとえば・・・
  • 新株の価値を推計したうえで、それに見合った金額を払い込み、しかるのち、配当や貸付金といった形で日本親会社に還流するというやり方は?
  • 増資の前に他の株主をキャッシュアウトして、しかるのち増資する、といったやり方は?
といった疑問がある。ともあれ、上告受理申立中のようである(この資料の16頁)。先例との関係では、東京高判平成22・12・15に続くもの。

なお、受贈益が誰からやってきたかについては、子会社からと構成しても、他の株主からと構成しても、その点では益金算入という結論は変わらないはず。

19 September 2016

モエレ沼公園、札幌(2016)


Brennan and Warren (2016) がでていた


Thomas J. Brennan 


Harvard Law School

Alvin C. Warren Jr.


Harvard Law School

August 22, 2016

Tax Notes, Vol. 152, No. 8, 2016 

Abstract:      

This article uses simple numerical examples to study the relationship between interest rates and the familiar problem of "lock-in" that arises from deferred taxation of unrealized appreciation. In the cases we study, lock-in comes about because of positive taxpayer borrowing costs, and realization and deferral remain significant problems for income taxation even in periods of low government borrowing rates.

We also find that it is the relative size, rather than the absolute size, of the borrowing costs that matters. Specifically, lock-in prevents a taxpayer from selling an asset and buying another with a higher pre-tax return only when the incremental after-tax return increase is greater than the borrowing cost necessary to pay the tax triggered as a result of the sale. Thus the magnitude of the lock-in problem does not necessarily diminish as borrowing costs fall, but rather it depends upon a complex relationship between and among the falling interest rates, the incremental increased returns that are available, and the amount of unrealized appreciation in assets.

02 September 2016

利子率ゼロの世界で、租税法を教える

5月16日号のTax Notesに出たこの記事は、利子率がほぼゼロの世界で(いまの日本はマイナス金利)、実現原則をはじめとする租税法のドクトリンに影響が及ぶことを指摘。タイミングよりも税率格差のほうが問題になるとか、キャピタルゲイン優遇税率の根拠が乏しくなることとか。

大事な指摘だし、個人的には、秋からはじまる所得税の授業方針にもモロにかかわる。でも、歴史的にみてリスクフリーの利子率がそれほど大きくないことはBankman and Griffith (1992)がすでに指摘していたし、はて、どこが新しいのかなあ、と感じていた。

ところが、この感じ方はあさはかだった。同じ著者が新しくポストした「法とマクロ経済―The Law and Economics of Recessions」によると、構想にはなかなか遠大なものがあって、深刻な景気後退期における法の役割は通常の経済状態におけるそれと異なるという主張を伴っている。かなり基本的なスタンスの問題だ。

26 August 2016

タックス・ヘイブンについて一高教授の論説が出ていた

一高龍司「タックス・ヘイブンを利用する租税回避と脱税に対する租税法上の対応」法学教室432号47頁(2016年)である。タックス・ヘイブンがからむ租税回避と脱税の基本例を示して、それらに対する対処を解説したのち、BEPSとの関係で、有害税制への対抗(BEPS行動5)とCFC税制の強化(BEPS行動3)に及ぶ。「(国際)租税法を学習し始めた大学院生向け」というだけあって記述は平明だが、情報量が多い。

タイムリーであり、法学教室が「時の問題」として掲載していることも、なるほどとうなずける。その後の動きも、急である。直近の出来事としては・・・
  • タックス・ヘイブンがからむ脱税についていえば、8月25日にパナマシティーにおいて、日本国政府とパナマ共和国政府との間で租税情報交換協定が署名された。
  • 有害税制への対抗(BEPS行動5)に関係しては、欧州委員会が移転価格ルーリングを許されない国家補助金とみていることに対して、8月24日に米国財務省がそれを批判するWhite Paperを出すなど、米欧間で火花が散っている。
また、日本の外国子会社合算税制については、やや古い情報になるが・・・
  • 5月26日(これは日本時間)の税制調査会でとりあげられており、「BEPSプロジェクトの結論」として抜本的見直しのための検討の必要性が頭出しされた格好になっている(この資料のスライド7)。→このポストで言及した。

17 August 2016

Mason, Citizenship Taxation (2016)

Ruth Mason教授が,この論文の抜き刷りを送ってくれた。彼女は,人の移動について長く考察を続けてきた。早速に読んでみた。

素材は米国の市民権課税。日本をはじめとする世界各国と異なり,米国は,米国市民に対して全世界所得課税を行う。その根拠を批判的に考察するもので,味わい深い作品になっている。

どこが味わい深いか。国際課税の多くの論題と異なり,この論題が,効率(efficiency)以上に,公正(fairness)と執行可能性(administrability)を重視して論ずべきものだという見通しのもとに,全世界所得課税を基礎づける根拠として市民権がどこまで有効であるかを問うている。

本論文によると,公正に関する論拠は,次の3つに分けることができる。
  • 米国市民権を保持することが同意を意味するという正当化
  • 政府から受ける便益に対する料金としての市民税
  • 社会的責務(social obligation)としての市民税
このうち,第1と第2は論拠として弱い。第3については市民権テストには一定の力があるものの,国民共同体メンバーシップ(national community membership)の指標としては,居住地テストとの間で一長一短である。これが本論文の主要な主張である。

米国特有の話かと思って読み始めたら,さにあらず。ここで語られる話は,もっと普遍的だ。たとえば,選挙権と納税義務との関係に関する論述は,「代表なければ課税なし」というスローガンの理解を鍛えてくれる(190頁)。もちろん米国法に関する論述は手堅く,文献をよく調査されていて,米国政府が海外で米国人を救出すると,その米国人に対して救出費用の補償を求める(192頁)という話など,知らなかった事実も多い。移民の研究や政治理論の文献をサーベイして論じているところも,魅力的だ(Michael Waltzerも出てくる,199頁)。

こうして,素材は現代の特定国の税制に関する一制度であるのだが,「個人に対して国家が全世界課税を行うというのはどういうことなのか」ということを考えさせる。政策上の選択肢として,市民権をひとつの要素として考慮する(231頁)というあたりになると,「住所があれば全世界所得課税」という通念で日本の現行法を金科玉条と思い込むことが,あやうくなってくる。もちろん,2015年度税制改正で,国外転出をする場合に譲渡所得課税の特例を導入したことについても,射程が及んでくる。基礎的研究ならではのインパクトであろう。

1923年に国際連盟に提出した報告書で,Seligmanら4名のエコノミストは,利益説や義務説との関係をふまえて,国家間課税権分配の基準を論じた。そこでは国籍テストにつながるpolitical allegianceを簡単に退けて,有名なeconomic allegianceの探求に向かっていた。しかし米国は市民権課税を続けたから,political allegianceの系譜が残った。本論文は,93年後に出たひとつの回答である。

04 August 2016

若槻禮次郎・現行租税法論(1903)

ここから読むことができる。左の「目次・巻号」のところをクリックすると、細目次があって、地租に関する長い叙述ののちに、249頁以下の所得税の記述に飛んでいける。

村井正「明治20年所得税法のルーツを探るーなぜプロシャ階級税かー(下)」税研188号(2016年7月)25頁、34頁注4は、この書物を、
明治期の租税法研究に欠かせない優れた文献である。
と評している。 同注が参照する若槻(1903)の該当個所を読むと、明治20年所得税の欠点が

  • 納税義務者の範囲明らかならず
  • 法人に課税することを得ず
  • 累進税の目的を達せず
  • 執行機関その宜を得ず

という具合にまとめられており、これらが明治32年所得税によっていかに是正されていったかがわかるようになっている。「欠かせない優れた文献」という評は、的確であると思う。ちなみに1903年は明治36年、つまり明治32年所得税の4年後ということになる。

03 August 2016

消費税増税の2年半延期

消費税率引上げ時期の変更に伴う税制上の措置」2016年8月2日自由民主党政務調査会がでていた。
軽減税率制度・・・等の施策については、その内容は維持しつつ、消費税率引上げ時期の変更にあわせ、導入時期を2年半延期することを基本とし、以下の各項目について、法制上の措置を講ずる。
要するに、パッケージで2年半の延期という方向だ。
        
 
改正前
改正案
消費税率引上げ
2017/4/1
2019/10/1
軽減税率の導入
2017/4/1
2019/10/1
インボイス制度の導入
2021/4/1
2023/10/1

Hat tip: KPMG Japan e-Tax News 

19 July 2016

Brexitに関する見立て

麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(平成28年7月15日(金曜日))が、次の問答を記録していた。最後の段落の見立て自体、玄人らしくて面白い。また、記者会見の途中で途中で問と答の立場が形式的に入れ替わっているように見えるあたり、かなり実質的な対話が成立している感じがする。


問)
 来週の話ですけれども、来週、中国の成都でG20の財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されます。前回の開催以降、イギリスの国民投票でイギリスがEU離脱を決めるなどといった大きな出来事もあったわけですけれども、今回の会議でどういったテーマでどのような議論がなされるのか、見通しや大臣としてこうしたことを取り上げたい等、お考えがあればお聞かせください。
答)
 ヨーロッパとイギリスとの間にいろいろな確執があるのは今に始まった話ではありません。加えてフランス、イギリスとの間もいろいろ昔からの話ですから、そういった話が急にすんなりなんていう話ではないのだとは思っていますけれども、いずれにしてもイギリス側からの説明があるでしょうし、イギリスも財務大臣が代わりますからそれなりの説明が向こうの方からあるのだと思いますが、(中略)。これらの方がどういう話をするのかよくわかりませんけれども、法案として提出するのでしょうけれども、議会はR、リメインの方がリーブのLより多いということになると法案は否決されるかもしれません。そうしたときはどうするのか。国民投票ではLでした、しかし国会でみんなで投票したらRでした、こういう場合どうなるのか。
問)
 国民投票には法的な拘束力はないということなので、結果が変わる可能性もあるのではないかと思います。
答) 拘束力がないからですか。
問)
 必ずしもEUから出るということが決まっているわけではないと思います。
答)
 内閣総理大臣としてLで提出した、国会はRだといって否決となれば、与党の法案を総理大臣等が国民投票に基づいて出した法案を、本人はR希望な人が総理大臣になっているのだけれども、出したものが否決されれば常識的には解散することになる。解散したらもっとRが増えましたので、選挙後にもう1回再投票した結果、やっぱりRでしたといったらイギリスはどうするか。多分、何もしない。政府はLと言ってEUに通告したことは1回もない。イギリスとフランスは、今するようにと言っているけれども、していない。何年かかるかわからないという話をして、結果的にRになりましたといったら何が残るのだろうか。一番よかったというのはポンドが安くなったということではないか。介入せずしてポンドだけが安くなった、ハッピーな人が多いのではなか。高等な戦術だと言うけれども、そこまで考えてやっているとは思えないけれども、結果論としてはそういうことになり得る。これは外国人の、いわゆるEUの議員でもみんな予想しているから、あり得るのではないか。だからポンド安になった。それだけというのがあの大騒ぎの結果だと思います。だから何が起きるかわからないと思ってはいますけれども、いろいろなことに対して我々はきちんとそういったものと、EUの中にいるわけではありませんから、そういった影響がアジアなり、また外国に及ぶ部分を最小限に抑えてやっていかなければいけないということになるのだとは思います。今からまだまだわからない話が多過ぎますので、G20ではその種の話を、ほかのところがどうやってEUの話を、もしくはイギリスの話をどうやって聞いていくかというところが一番、報告をまずは聞いてみないと、直接G20の会議で聞いてみるということになるのではないか。

14 July 2016

2015年の米国への海外直接投資は68%増

この記事によると、増加のひとつの要因がインバージョンだった。

  • 既存企業の買収が4081億ドル
  • 新企業の設立が112億ドル
  • 残る14億ドルは外資企業の米国拠点の拡張によるもの

13 July 2016

学生諸君、講義中のノートPCは使用を禁ずる

WSJのこの記事には、はげしく同意せざるをえない。

さらに参照、【ノートパソコンでノートをとっている学生たちは手書きでノートをとっている学生より成績が悪い傾向にある

「書く」というプロセスが情報を記憶に深く焼き付ける

手書きで講義ノートを取る学生の成績は、パソコンに打ち込む学生よりも良いことが判明した(英語音声、英語字幕あり)

日経新聞の税金考が、書籍化されていた

08 July 2016

21世紀政策研究所の今年の報告書が公表されていた


提言


第1 章 BEPS プロジェクト最終報告書の総括と今後の展望 ..... 青山 慶二 1
1.はじめに................................................................................................................... 1
2.最終報告書の理念と構成について ........................................................................... 2
3.今後の展望 ............................................................................................................... 5

第2 章 BEPS 行動8~10:移転価格税制(総説) .................... 岡田 至康 7
1.概説 .......................................................................................................................... 7
2.無形資産................................................................................................................... 8
3.所得相応性基準 ...................................................................................................... 12
4.リスク .................................................................................................................... 14
5.否認 ........................................................................................................................ 16
6.その他の租税回避の可能性の高い取引に係る移転価格ルール .............................. 17
7.今後の対応 ............................................................................................................. 18

第3 章 行動計画8~10 : 移転価格税制(利益分割法と関連する諸問題)
...................................................................................... 山川 博樹 21
1.はじめに................................................................................................................. 21
2.今般の利益分割法の議論を巡る背景 ...................................................................... 22
3.BEPS プロジェクト最終報告書の利益分割法に関連する議論 ............................... 23
4.「移転価格の結果と価値創造の整合 行動8~10:2015 最終報告」の中の「利益分
割法のガイダンスの作業の範囲」の概観 ............................................................... 26
5.「移転価格の結果と価値創造の整合 行動8~10:2015 最終報告」の中の「利益分
割法のガイダンスの作業の範囲」の考察 ............................................................... 30
6.まとめ .................................................................................................................... 40
<参考> ...................................................................................................................... 43

第4 章 行動7:PE 認定の人為的回避の防止 ........................... 浅妻 章如 47
1.PE の範囲が問題になることの国際租税法全体の体系との関係 ............................ 47
2.代理人PE 認定の人為的回避 ................................................................................. 52
3.準備的補助的活動 .................................................................................................. 54
4.細分化・契約分割 .................................................................................................. 55

第5 章 租税条約の濫用防止に関するBEPS 最終報告書
―米国の動向と我が国の対応のあり方― ..................... 一高 龍司 57
1.はじめに................................................................................................................. 57
2.OECD モデル条約における対処の経緯と現状 ....................................................... 61
3.最終報告書のポイント ........................................................................................... 65
4.米国の動向 ............................................................................................................. 75
5.おわりに................................................................................................................. 84

第6 章 有効なCFC 税制の構築(BEPS プロジェクト行動3)
―CFC 税制を再検討する上でのいくつかの論点― ...... 渡辺 徹也 87
1.はじめに................................................................................................................. 87
2.報告書の概要 ......................................................................................................... 87
3.CFC 税制の趣旨 ..................................................................................................... 89
4.コンセンサスの欠如 ............................................................................................... 94
5.報告書を受けて(日本の制度及び企業の今後) .................................................... 98
6.おわりに............................................................................................................... 100

第7 章 BEPS 行動計画3(CFC ルールの強化)及び行動計画6(租税条約の
濫用防止)に係る事例研究 ......................................... 高嶋 健一 103
1.行動計画3 CFC ルールの強化 .......................................................................... 103
2.行動計画6 租税条約の濫用防止 ........................................................................ 134

第8 章 行動4:利子の控除制限 ....................... 原口 太一・上田 滋 147
1.はじめに............................................................................................................... 147
2.BEPS 行動計画における内容・目的 .................................................................... 147
3.BEPS 行動計画が公表される前のOECD における議論 ...................................... 148
4.BEPS 行動計画の公表後から最終報告書の公表までの経緯 ................................ 151
5.最終報告書の概要 ................................................................................................ 153
6.ベストプラクティス・アプローチと本邦現行税制との比較 ................................ 156
7.ベストプラクティス・アプローチが我が国の経済活動へ与える影響 .................. 159
8.おわりに............................................................................................................... 161

04 July 2016

バウチャーのVAT取扱いに関するEU指令が、採択されていた

Council Directive (EU) 2016/1065 of 27 June 2016 amending Directive 2006/112/EC as regards the treatment of vouchersである。だいぶいろいろな解釈問題がありそうで、教室設例でずいぶん議論できそうだ。

適用対象については
Only vouchers which can be used for redemption against goods or services should be targeted by these rules.
と書いてあって、財やサービスと引き換えるものだけが対象になっている。さらに、
The provisions regarding vouchers should not trigger any change in the VAT treatment of transport tickets, admission tickets to cinemas and museums, postage stamps or similar.
ということなので、運送切符や映画館入場券、郵便切手などには影響しない。

課税ルールは、次の区別による(VAT指令30a条)。一方で、単一目的バウチャー(single-purpose voucher)については
Where the VAT treatment attributable to the underlying supply of goods or services can be determined with certainty already upon issue of a single-purpose voucher, VAT should be charged on each transfer, including on the issue of the single-purpose voucher. The actual handing over of the goods or the actual provision of the services in return for a single-purpose voucher should not be regarded as an independent transaction.
というわけで、引き換える財やサービスのVAT取り扱いがバウチャー発行時に確実に決定できる場合、バウチャー発行時に課税(30b条(1))。

他方で、複数目的バウチャー(multi-purpose voucher)については
For multi-purpose vouchers, it is necessary to clarify that VAT should be charged when the goods or services to which the voucher relates are supplied. Against this background, any prior transfer of multi-purpose vouchers should not be subject to VAT.
という具合に、財やサービスの供給時に課税(30b条(2))。

2018年12月31日よりもあとに発行されたバウチャーについて適用するという。これに間に合うように、EU加盟国が国内法を改正することになる。



03 July 2016

人工知能のインパクト

The Economistのこの記事が19世紀初頭との比較でもって、現代の人工知能が私たちの社会に与える影響を論ずる。仕事のあり方が変わる。しかも急速に。だから、人的資本の形成のやり方や、社会保障システムに、対応が必要だという。

特集記事はだいぶ長いが、2点が印象に残る。
  • 仕事への影響に関する記事は、機械に置き換わる仕事かどうかを決めるのはルーチン作業か否かによるのであり、肉体労働であるか否かによるわけではないという。つまりコンピュータも自前で、定型の頭脳労働ならできるようになるということ。それはそうだろう。囲碁でAIが人間に勝ったことからすると、ノン・ルーチンの仕事ですら果たしてどうなるか。
  • 教育政策に関する特集記事は、個別知識の賞味期限が短くなっていく中で、常に学び続けていけるようにすることを強調。この文脈から、MOOCSのような公開システムが出てきたことの意味がわかってくる。Udacity, Coursera, edXはすべてAIのコミュニティーから出現したわけで、創立者は教育システムのオーバーホールが必要だと信じているという。なるほどね。ただし、最後のあたりでベーシックインカムに触れているところは、この雑誌の最近の主張のくりかえし。

02 July 2016

岡山地判平成26・7・16訟務月報61・3・702(外国子会社合算税制の適用除外を受けるためには確定申告書に書面添付を要する)

岡山に本店のあるゴム・合成樹脂の成型・加工・販売業の会社Xが、香港に子会社Aを置いて、広東の会社Bとの間で来料加工。

国税不服審判所平成24年1月25日裁決は、詳しく事実認定を行い、Aの主たる事業は製造業であり、その事業を主として本店所在地国等で行っていたといえないとして、外国子会社合算税制の適用除外にあたらないとした。X出訴。

岡山地裁の判決は、今度は、確定申告書に租税特別措置法66条の6第6項の書面添付がないという理由で、適用除外を認めなかった。

平成19年改正前の同6項は、次のように規定していた。
第一項各号に掲げる内国法人が第三項又は第四項の規定の適用を受ける場合は,当該内国法人は,確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付し,かつ,その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存しなければならない。
判決は、この規定を次のように解釈した(番号、下線、色付けはすべて引用者による)。
措置法66条の6第6項は,ある特定外国子会社等が適用除外要件を満たすかどうかを判断するに際し,その事業内容,事業に係る取引相手などを適正に審査することが必要になることを受け,同条1項各号に掲げる内国法人に確定申告書への適用除外記載書面の添付等を義務付けることによって,①当該内国法人に適用除外規定の適用を受ける旨の意思を明らかにさせ,②課税庁が適用除外要件該当性の判断の根拠となる資料を当該内国法人から早期かつ確実に収集し,適用除外要件について適正かつ迅速に判断することを可能にするために設けられたものと解されるところ,③その規定文言及び④適用除外要件の判断における上記内国法人からの資料収集等の必要性,重要性に鑑みれば,同条6項は,適用除外規定の適用要件を定めたものと解するのが相当であり,その趣旨は,平成19年改正前の規定文言の下でも既に明らかであったが,同改正によって,より明確なものになったというべきである。
つまり、

  • 6項の趣旨 ①納税者に意思を明らかにさせる、②課税庁が早期確実の資料収集と適正かつ迅速な判断できるようにする
  • 理由 ③規定文言、④上記・・・資料収集等の必要性・重要性
  • 結論 6項は適用除外要件の適用要件だ
ということ。ここで、③は、既定の文言をじっとにらんで、「これは適用要件だ」という頭で読めば、そう読める。でも、そういう頭で読まなければ、それほど一義的なことではない。なにしろ、「適用を受ける場合は」、書面を添付しなければならないとしか書いてないからである。だから、③規定文言がこうなっていますよ、というだけでは、理由としてはちと弱い。

そういうわけで、④上記・・・資料収集等の必要性・重要性、というところがポイントだろう。ここで「上記」というのは、②のことをいいかえている、と読める。つまり、②の早期確実、適正迅速というところが効いていて、あとから書面を出してもだめであって、確定申告書に添付しなければ間に合わないよ、といっているのだろう。

これを要するに、平成19年改正の文言が次のように書いてあることを、必ずしもそう明確には書いていない文言の下で、規定の趣旨を補って解釈で導き出した、ということのように思われる。
第三項又は第四項の規定は,確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付し,かつ,その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存している場合に限り,適用する。
この判決はそのまま確定したようである。もし国税不服審判所の裁決で実体的な適用除外要件について審理していなかったならば、納税者は判決のこの理由だけで控訴を断念しただろうか。

28 June 2016

Oxfordの長い一週間

27日にこれ28日から1日までこれ。京都でこれがあるころ,すでに夏休みになっているのだなあ。

26 June 2016

Brexit

激震だ。合意にこぎつけたEUのATAD(租税回避防止指令)も、UK(あるいはイングランド?)抜きということになりそう。

新しい論評は検索するとすでにたくさんでているが、すでに2月の段階でこの記事が関税・VAT・域内源泉徴収、国家補助金など、多くの論点にインパクトがあることを予想していた。

米国のブログでも論評がでている。たとえば下記の4つめのブログで、Shaviro教授は欧州司法裁判所がCFCルールに制限を加えたため英国は自分がタックスヘイブン化することを選んだが、これでEUのしばりがなくなるところ、英国はすでに決めたことをやり直すことはないだろう、といっている。もちろんこれから具体的にどうなるかは未定で、不安定な状態が続くわけであるが。

Saturday, June 25, 2016

The Tax Consequences Of Brexit


21 June 2016

EUの租税回避対策パッケージ,その後(2)

2016年6月20日24時のデッドラインを過ぎても反対意見がなかったので、日付の変わった21日0時30分付けで、合意が成立した旨のプレスリリースが出ていた。次の欧州理事会で、正式に指令を採択することになる。5つの項目をカバー。

  • 利子控除
  • 出国税
  • GAAR
  • CFCルール
  • ハイブリッド・ミスマッチ
これに対して、欧州委員会も歓迎の声明。Q&Aのアップデートもある。注目された欧州の対応であっただけに、これからどんどん論評が出てくるのだろう。



EUの租税回避対策パッケージ,その後

2016年6月17日の経済財務相理事会(ECOFIN)で,オランダ議長が妥協案を提示。6月20日24時までに加盟国から異議が出なければ政治的合意ができることになる。先の案にあったswitch over clauseが外れている。

また,同日に,Code of Conductについても,後押しする文書が出ていた。Code of Conduct Groupのレポートはこれ

なお,6月20日に,欧州委員会のPierre Moscovici委員長がベルリンで講演していた。透明性とCCCTBにも言及。

20 June 2016

シンガポールがBEPSにコミット

2016年6月16日に、MOFと、IRASが、Inclusive Frameworkに参加することを公表していた。4つのミニマム・スタンダードにコミット。CbCRは2017年1月1日以降開始の事業年度につき適用。

19 June 2016

教師は一日にして成らず

この記事である。より長い記事にのっている下の表は、だいぶ参考になるなあ。目についた点が以下。元データの出所はここだという。

  • フィードバックは効果が大きい。これはまあ、そうだろう。
  • クラスサイズを20名未満にしても、費用のわりに効果がそれほど大きくない。へえ!
  • 校舎の改善は効果ゼロ。どのレベルからの改善かという問題はあると思うけど。


http://www.economist.com/news/briefing/21700385-great-teaching-has-long-been-seen-innate-skill-reformers-are-showing-best

インド財務省が、モデルGST法を公表していた

2016年6月14日付けのこの文書である。2015年12月のドラフトに批判が強く、新しく出したもの。ずいぶん話題をよんでいる

09 June 2016

欧州議会が、パナマ文書調査委員会の設置などに合意していた

2016年6月8日付けのこのプレスリリースである。今後12か月で報告書を提出するという。

また、同日付けで、欧州委員会の租税回避防止パッケージを支持するプレスリリースを出していた。欧州委員会の案より野心的な点のひとつとして、いわゆるswitch-over ruleを推している。EU域外で課税されEU域内に移転する収益が、往々にして非課税となっているところ、15%の最低税率を設定して、EU域外でそれよりも低い税率で課税されている場合、差額を納付させるというもの。賛成486、反対88、棄権103。今後、指令が成立するには、EU加盟国全会一致が必要である。

04 June 2016

英HMRCが、移転価格の第二次調整についてコンサルテーションをはじめていた

2016年5月26日付けのこの文書
Introduction of secondary adjustments into the UK’s domestic transfer pricing legislation  
である。みなし融資(deemed loan)の方法で如何、とコメントを呼びかけている。

この点につき、2010年移転価格ガイドラインは、パラ4.71で次のように述べ、二重課税の可能性を最小化すべきことを促していた。

4.71 In light of the foregoing difficulties, tax administrations, when
secondary adjustments are considered necessary, are encouraged to structure
such adjustments in a way that the possibility of double taxation as a
consequence thereof would be minimised, except where the taxpayer’s
behaviour suggests an intent to disguise a dividend for purposes of avoiding
withholding tax. In addition, countries in the process of formulating or
reviewing policy on this matter are recommended to take into consideration
the above-mentioned difficulties.

また、擬制を用いて私的取引にまで「みなし」の効果を及ぼすことに対しては、下記文献による原理的な批判があることを忘れるべきではなかろう。
Hiroshi Kaneko, Legal Aspects of the Transfer Pricing System, Bulletin for International Fiscal Documentation Vol.49 No.10 (1995).



27 May 2016

国際課税版の「実像把握」が,アップされていた

政府税調のこのサイトである。丁寧にデータを積み上げて,ルクセンブルグやシンガポールなどのGNPでみた「小国」が直接投資・証券投資の導管として用いられる傾向が強まっていることを,説得的に示している。今後の租税政策を考えるうえで,不可欠の基礎資料となるであろう。

特に注目したいのが,このデータの32頁。日本企業の海外展開ということでいえば,リアルな経済活動のあるところに見合った形で拠点が置かれている。これが私の読み取りである。こういう実需に見合った企業経営の世界と,バーチャルなマネーの流れの世界とは,異なるということである。

また,日本からの投資が多いケイマン諸島の位置づけについても,その規範的評価については丁寧に考える必要がある。少なくとも,BVIと比べて規制がゆるやかであるという評価については,正直にいって違和感を禁じえない。

さらにいえば,中間会社を置くことに事業上のやむにやまれぬ理由がある場合もあることに留意しておくべきであろう。たとえば,日本への利益還流や,事業終了時のEXITなどが難しい国への進出にあたって,いったん安全な国に中間持株会社をおき,その中間持株会社の株を売ることで投下資本の回収をはかる,といった例などである。もちろん,これこそが,インドのVodafone事件や,最近のインドとモーリシャス条約の改定の背景にあるわけであるが。

おそらく,リアルな事業活動の世界と,脱税・資金洗浄まで含めた幽霊会社の跋扈する世界とを,きちんと文節化して議論できるかどうかが,水準を保った租税政策論ができるかどうかの分かれ目といえるのではないか。

08 May 2016

ロンドン腐敗対策サミットを前に,貝殻会社の透明性に関する記事がでていた

この記事である。

Corporate ownership and corruption

How to crack a shell

Ownership registries could help to end the corporate secrecy that fosters corruption. But current plans are not promising


パナマ文書の公開をうけて,2016年5月12日にロンドンで開かれるAnti-Corruption Summitの最重要議題が貝殻会社(shell company)の実質的支配者(beneficial owner)たる個人の特定であることを論じている。この記事は,
  • 公開レジストリモデル
  • ゲートキーパーモデル
の2つのモデルの対立があるという。英国が前者を推し,英国の海外領土は後者を推す。後者のゲートキーパーモデルでは,法律事務所や信託会社などがゲートキーパーとなって,会社の実質的支配者の本人確認書類を集めて認証する。それには実務上の問題があると指摘したうえで,この記事は,公開レジストリモデルについて,検証なしの自己申告だけではまったく機能しないというJason Sharmanのコメントを引用して結んでいる。

ふたつのモデルが対立しているというのがこの記事の見立てだが,両方を実施せよ,ということにはならないものだろうか。記事自体,EYの調査(リンクがみつからない-このあたりだろうか)を引用して,ビジネス界の支持があると指摘している。

07 May 2016

米国財務省が,資金洗浄・腐敗・脱税の対策案を発表していた

2016年5月5日付けのこのプレス・リリースである。対策案は次の3つ。
  • Customer Due Diligence (CDD)最終規則。会社が口座を開く際に,金融機関が実質的支配者たる自然人の個人情報を収集し検証するようにする。
  • Beneficial Ownership立法を議会に提案。会社設立の際に財務省に実質的支配者情報を申告する義務を課すための制定法を立法する。
  • Foreign-Owned Single-Member LLC提案規則。現行法の下で情報がとれていないdisregarded entityについて,Employer Identification Number (EIN)を取得し,取引情報などを申告するようにする。
2つめの立法は,議会に対する要請という形をとっている。財務長官のレターはこれ。立法を要請する理由として,金融犯罪と戦うには会社設立時に実質的支配者を開示させることが必要であると述べている。

なお,このレターは,上院が租税条約を承認することや,FATCAを双方向の相互主義的なものにしていくことをも,議会に対して求めている。

https://www.treasury.gov/resource-center/tax-policy/Pages/default.aspx

25 April 2016

会社設立ビジネスの東方移動?

The Economistの次の2つの記事を読むと,パナマ文書のあと,Mossack Fonseca以外の事務所や,パナマ以外の法域に対して,精査の眼が注がれてきていることがわかる。記事の見方は,会社設立ビジネスが東方へと移動していく可能性を示唆するもの。

まず,2016年4月16日号のUnlocking Mossack Fonseca: The key's in Sin City

  • ネバダ子会社を通じて,Mossackにsubpoenaをかけて顧客情報を入手する途があること

そして,2016年4月16日号のAfter the Panama papers: Who next?

  • Mossack Fonseca以外の事務所,たとえばMorgan & Morgan, OIL(Offshore Incorporation Ltd), TMF, Intertrustなどにスポットライトが当たるであろうこと
  • 英領バージン諸島(BVI)で法人登記公開などの規制強化を検討する議論があること
  • その結果セイシェルやサモア,香港に法人設立ビジネスが移動することが一部の人たちの間で「懸念」されていること

なお,やや古いが,これらの背景として,2012年4月7日号のCompany formation: Shells and shelvesが依然として有益

  • この業界に卸売業者と小売業者があること
  • 業者の実名を多数あげていること
  • サービスの内容
  • 収益構造からして,Private equity firmsにとって魅力的な投資先であること
  • 顧客ベースが東に移動するにつれ会社設立ビジネスも香港やシンガポールに移動
  • バハマがBVIを真似し,バハマが手数料を増額したあと3週間でサモアが会社のお引越しをしやすくするよう法律を変えたこと

個別消費税とVATをあわせた所得階層別負担の実証研究が出ていた

Toshiyuki Uemura, Yoshimi Adachi, and Yurie Saitoh
MEASURING THE BURDEN OF INDIRECT TAXATION INCLUDING CONSUMPTION TAX IN JAPAN BY INCOME GROUP
No 141, Discussion Paper Series from School of Economics, Kwansei Gakuin University
2016.03
である。

個別消費税とVATをあわせたところで,日本の消費課税の所得階層別負担を計測し,逆進的であるという結果を得ている。交通通信費(transportation and communication)にかかる個別消費税がかなり逆進的になっている。消費税増税に伴う逆進性緩和としては,低所得者を厳密にターゲットする社会保障政策が必要であるとしている。




15 April 2016

WTOのPanama/Argentina Disputeで,パナマ敗訴

2016年4月14日に上級委員会がこれを出していた。2012年12月からの係争事件である。アルゼンチンの措置に対してパナマがGATSの最恵国待遇と内国民待遇違反を申し立てていた。これを認めるパネルを覆し,パナマの主張を退けた。この決定により,事実上,WTO加盟国は,非透明法域に対する防御措置を講じつづけることが妨げられないことになる。

国際課税に関する紛争処理のフォーラムという点でも重要であるし,決定が公表された時期という点でもたいへん興味深い。

Click here to return to homepage

04 April 2016

BEPS行動13(国別報告書)への対応例

EUでは,会計に関する指令Directive 2013/34/EUの改正によりCbCRを公開する案がある。このサイトによると,リークされた指令案が報じられたのが2016年3月21日。EU域内で国別表示を行うもので,域外は一括表示。批判がこれ


European Commission logo


他方で,シンガポールのBudget 2016はCbCRに一切言及していないというのが,Steve Towersの2016年4月1日のビデオ。エイプリル・フールのジョークかと思いきや,たしかにここにはBEPSという言葉が出てこない。代わりに出てくるBIPSという言葉は, Business and IPC Partnership Scheme (“BIPS”) という似ても似つかないもの。

Singapore Budget 2016

The Panama Papers

これ

26 March 2016

米国2016年モデル租税条約はBEPS行動7(PE認定の人為的回避)にどこまでつきあうか

2016年2月17日に出された米国2016年モデル租税条約は,PE認定の閾値に関するBEPS行動7の勧告の重要部分をとりいれていない。もっとも,これをもって「泣き別れ」になったとみるのは,即断であろう。なぜならば,
の末尾の段落が次のように述べているからである(下線は引用者による)。

The 2016 Model has not adopted the other BEPS recommendations regarding the permanent
establishment threshold, notably the revised rules related to dependent and independent agents
and the exemption for preparatory and auxiliary activities. It is important to ensure that the
implications from any modifications to these treaty provisions are commonly understood and
consistently administered by treaty partners. Accordingly, the Treasury Department is working
with OECD and G20 member countries to create a common global understanding regarding
profit attribution that will address the concerns raised by these BEPS permanent establishment
recommendations. Furthermore, the Treasury Department is interested in developing ways to
mitigate the compliance burdens on businesses and tax administrations that the new permanent
establishment rules could create.

この論旨を逆手に読むと,「PEに帰属すべき利得に関する共通のグローバルな了解」が形成され,「コンプライアンス負担を軽減する」方法が開発できたら,おつきあいしてもいいよ,というニュアンスを読み取ることも不可能ではなかろう。ハードルの高いことかもしれないけれど。

20 March 2016

石油価格の世界的下落に伴い,各国の石油課税に変化が報告されていた

この記事である。

Taxation and oil companies

Oiling the wheels

Governments are easing the tax burden on the industry, with some exceptions


①価格に応じた課税になっているか(油田の利益の一部をとる豪やノルウェー),②バレルあたりの課税になっているか(ブラジルやカザフスタン)で,石油価格の下落がもつ意味がだいぶ異なってくる。すなわち・・・
  • ①であれば価格変動に自動的に対応する
  • ②であれば価格が下落しても1バレルあたりの税額は変わらないから政府の取り分は相対的に増える
この話は,租税法の授業のはじめのあたりで従価税と従量税の違いについて説明するときに,使えそう。

この記事はさらに,英国の昨年の減税を皮切りに,カザフスタンやブラジル,コロンビア,メキシコ,ケニヤ,カナダのアルバータ州などの政府行動が変わったという。ただし,いまだ「底への競争」にはなっておらず,ロシアのように増税が予想されるところもあるといっている。ふーん。少なくともいえそうなことは,「レント税だと政府がどれだけとっても企業行動に影響しない」という話が,現実の石油産業との関係では必ずしも妥当せず,実際にはもっと複雑な考慮を要するということ。

この記事が出た機会に国連のサイトをチェックしてみたが,あまり動きはないよう。

英国2016年度予算はEU残留をにらんでいるとの解説

The Economistのこの記事。高度に政治的な予算(an intensely political budget of fixes and fiddles)だが,にもかかわらずひどく悪いわけではない(it wasn't too bad)という。EU残留を打ち出したGeorge Osborne蔵相からすると
  • 論争を避ける
  • すでにEU残留を支持する多国籍企業には増税,EU離脱に傾く中小企業には減税
  • EU離脱に傾く地域は地方分権で懐柔
という意味があるという。さらに続けて
  • 「次世代のための予算」は不十分
  • 全体として累進的でない
  • 過度に複雑
などと辛口の批評を加えつつも,分別のある経済的方向であるとしている。英国の雑誌が英国のことを論評するのは,読み解きがだいぶ難しい。でも,「へえそうなのか」という感じはする。


BEPS行動11について,渡辺智之教授が論文を公表していた

BEPSを巡るデータ上の諸問題」(2016.03)である。

行動11の報告書は「実態把握という最も基礎的な課題を扱った報告書として重要」なだけでなく,CbCレポート「によって求められているデータの問題と深い関連性がある」とする。そして,この角度から,行動11の報告書の要点をまとめたうえで,報告書の意義と問題点を論じている。

BEPSの数量的把握が依然として困難であることが,教授の抑制されたコメントから浮かび上がる。慎重な姿勢が印象的。

http://www.oecd.org/tax/beps.htm

17 March 2016

山手線で一番無名

北区田端駅のline stampが,「山手線で一番無名!」で人気になった。

けれど,わが文京区にはJRの駅がそもそもひとつもないという事実。

加藤新太郎「事件のスジの構造と実務」に武富士事件へのコメント

加藤新太郎「事件のスジの構造と実務」高橋宏志ほか編『民事手続の現代的使命 伊藤眞先生古希祝賀論文集』(有斐閣,2015年)211頁,233頁注(27)。

民事訴訟審理の終盤で規範と結論との適合性に問題があると認識した場合に,裁判官が自覚的な法解釈により法規範を創造・形成することが試みられる,という本文に続くのが,この注(27)である。同注は,このような試みにも限界があるとする。そして,「具体的妥当性という点から結論のスワリが悪いと感じられるケース」として,相続税法上の「住所」の意義が問題となった武富士事件最判平成23年2月18日判例時報2111号3頁をあげ,かかるケースも「甘受しなければならない」と述べたうえで,須藤正彦『弁護士から最高裁判所判事へ』(商事法務,2014年)126頁を引用している。

27 February 2016

ウェスパシアヌスの増税策

ローマのコロッセウム建設に着手したウェスパシアヌスは,
Pecunia non olet (金は臭わない
の一言でたいそう有名である。しかし最近の研究によると,財源探しは彼にはじまったことではなく,アウグストゥス以降,多くの混乱した試みが続けられていたという。


21 February 2016

iPhoneのロック解除問題

すでに多くの記事が出ているようだが,比較的に要領のよいまとめがReuterのこれ(日本語版)。
直接の発端は2016年2月16日の裁判官の命令で,その後大きな反響を呼んでいる。デジタル化が進んだ社会において,プライバシーに関する原理的な整理が日常的な事件のレベルで迫られている適例。押っ取り刀で検索してみたら,Daniel Soloveはすでにコメントをアップしていた。


 2月17日、米アップルは、銃乱射事件の容疑者が持っていたiPhoneのロック解除に向けて米政府に協力するよう求める連邦裁判所の命令に抵抗している。写真は分解されたiPhone。NY市の修理店で撮影(2016年 ロイター/Eduardo Munoz)

Petrobrasが20億レアルの追徴課税を受けていた

2015年8月のWSJの記事によると,以前からの係争事件についてブラジル政府との間で20億レアルで折り合ったという。

ちなみに7月のReutersの記事では16億。2014年の別の記事では87億。2012年の記事では47億。数字は段階によって違うが,いずれにしてもきわめて巨額。


Petrobras

20 February 2016

The Economist誌、米国の金融透明性欠如を再び批判

この記事である。
Financial transparency - The biggest loophole of all
Having launched and led the battle against offshore tax evasion, America is now part of the problem
Feb 20th 2016 | From the print edition

米国が一国主義的にFATCAをはじめておきながら,多国間枠組みでのCRSには参加しない。このことが,米国を大きな抜け穴にしてしまっている,という。情報源として引用があるのはBloombergやDie Zeit誌,Jason Sharman氏。関連して,パナマがアメリカの動向を言い訳にしてCRSから離れる動きをしているとの記事も出ている。

なお,昨年秋にも,同様の批判がされていた。

Hat tip: @masayoshimu




30 January 2016

欧州委員会の租税回避対策パッケージ

2016年1月28日,欧州委員会がAnti Tax Avoidance Packageを出した。ブリュッセル官僚のイチオシは依然としてCCCTBであるが,まずはG20/OECDのBEPS2015年成果物を受けてEUでなすべきと考えることをパッケージとして示した。概要はここからみることができ,全体を概観できる文書がこれ。

ポストBEPSの実施過程に関心のある人にとって,必読文書。
anti_tax_avoidance_graphic

最判平成27・7・17(固定資産税,納税義務者の特定困難)

堺市西区日置荘(ひきしょう)あたりは池が多い。都市化が進んでこれらが埋め立てられ,登記簿では所有者が「大字西」などと記載されていた。西区だけでなく,南区・東区・北区でも同じように,所有者の帰属を確定することが難しい土地が複数あった。「原審の確定した事実関係等の概要」によると,これらの土地は,
地区の住民の総有に係る財産として,その異動状況の把握のために堺市が作成する財産台帳に登録されている(中略)。そして・・財産台帳に登録されている財産・・・の管理及び処分については,堺市の定める要綱等において,その決定につき当該地区の住民により組織されている自治会又は町会の総会の決議によることが基本とされている。
という状態だった。そして,納税義務者を特定できないとして,固定資産税の賦課徴収が行われていなかった。これに対し,固定資産税の賦課徴収を堺市長が違法に怠ったとして,住民訴訟が提起された。第1審大阪平成25年4月26日判例地方自治400号44頁は一部却下,一部棄却,一部認容。

控訴審大阪高判平成26年2月6日判例地方自治400号71頁は,一部取消。結論に至る判断の過程で,関係自治会等が納税義務者だとした。すなわち,登記簿の表題部の所有者欄に記載されている「大字西」等の名義によって表章される旧来の地縁団体は消滅しているものと同視し,地方税法343条2項後段を類推適用して,関係自治会等が同項後段にいう「現に所有している者」としてその土地の固定資産税の納税義務者に当たるとみるべきである,とした。

最高裁第2小法廷は原審のこの判断を是認できないとした。「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではない」という一般論が固定資産税の納税義務者の確定についても同様にあてはまると述べたうえで,次のように判示。
原審は,本件各土地につき,本件固定資産税等の賦課期日におけるその所有権の帰属を確定することなく、前記2(2)イの要綱等における取扱い等に照らして関係自治会等をその実質的な所有者と評価することができるなどとして,地方税法343条2項後段の規定を類推適用することにより,関係自治会等が本件固定資産税等の納税義務者に該当する旨の判断をしたものであり,このような原審の判断には,同項後段の解釈適用を誤った違法がある
というのである。結論は破棄差戻しであり,
本件各土地につき原審において判断されていない地方税法343条4項の適用の有無等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻す
こととされた。

単なる「執行の不足」というストーリーにおしこめてしまうのは惜しい事実関係。事実関係の概要に出てくる「総有」という性格付けからして不思議にあやしい。そもそも全国津々浦々の土地がもれなく課税権の対象になるのか。課税権からの「飛び地」というか一種の「すきま」は存在しうるのか。近代国家成立以前の「誰のものでもないけど,でもまあみんなの土地」という構成の現代における位置付けが問われるはず。