12 October 2015

今日の駒場ゼミはこの4本

The Economist, October 5th, 2015のLeaders5本のうち,2本目から4本目です。


Leaders

The world economy
Dominant and dangerous (120)
Zimbabwe
Act before the tyrant dies (49)
Property taxes
Welcome to New London (22)
War in the Muslim world
Putin dares, Obama dithers (1,168)
Remembering history
Museum pieces (68)


05 October 2015

いよいよ今日が,BEPSプロジェクト成果物の公表日

パリ時間で,記者会見が14時,専門的ウェブキャストが16時。

Live webcast: launch of the 2015 BEPS package

30 September 2015

米国24教授の連名で,国際課税ルールについて意見書

この意見書である。現在の米国では,受取配当を非課税することでテリトリアル方式に移行し,同時に,ハイウェイ・トラスト・ファンドの財源を埋めるため海外蓄積の未還流利益に対して軽税率で課税して短期的な財源を確保しようとする諸提案が,政治過程に登場している。

これに対し,24教授は,次の論拠をあげて,強い反対の意見を述べている。
  • 現行法のもとで米国多国籍企業は高収益を得ており競争的である
  • テリトリアル方式よりも,課税繰り延べのない全世界課税方式のほうが望ましい
  • コーポレート・インバージョンへのシンプルな対策は利子費用控除の制限であり,テリトリアル方式ではない。
  • 資金還流に対する税率が低すぎる
  • パテント・ボックスは新しい抜け穴になる
連名リストには著名な先生方の名前がずらっとならんでいる。Obama大統領の提案や,Portman=Schumer提案などへのリンクは,ここにある。

Chart

18 September 2015

最判平成37年2月28日刑集16巻2号212頁(株式会社月ヶ瀬事件)の言葉づかい

源泉徴収制度が合憲であるとした大法廷判決である。憲法29条や18条についても争われたが,憲法14条違反にならないとしたくだりで,次の制度理解を示している。すなわち,所得税法が給与の支払者を源泉徴収義務者としたのは
給与の支払をなす者が給与を受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る
という点を考慮したからだ,というのである。そして,そのことには合理的理由があり,憲法14条に違反しないとしている。ここにいう「特に密接な関係」がある者を源泉徴収義務者にする,という制度理解は,最高裁の最近の判決でも参照されている(破産管財人が弁護士報酬や破産会社元従業員に対してする支払に関する最判平成23年1月14日民集65巻1号1頁)。その意味でも,重要な判決である。

もっとも,改めてこの大法廷判決を読んでみると,「担税者」という言葉をつかっているなど,現在の議論からみてやや違和感をおぼえるところがある。たとえば,憲法84条について
担税者の範囲,担税の対象,担税率等を定めるにつき法律によることを必要とした
と述べている。このような言葉づかいについては,橋本公亘・租税判例百選第2版171頁(1983年)が,
この判決は「担税者」という用語を用いているが,これは財政学上の用語であるから,「納税義務者」とした方がよかったと思われる。
と指摘していた。金子宏・租税法第20版868頁(2015年)も,
ただし,この判決の用語や論理には,問題が少なくない。
とコメントしている。用語の点で,その後の議論は,より法律に即した表現をとってきたように感じられる。論理の点では,最判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁(大嶋訴訟)の大法廷判決が憲法14条の違憲審査基準を定立している。時代の経過とともに,一方で生き続ける用語やロジックがあるとともに,他方で変化(進化?)していくものがあるということだろうか。

28 August 2015

特集「租税について考えてみる」が、アップロードされていた

日本司法書士会連合会の「月報司法書士」2014年8月号(No.510)である。特集の趣旨は、
単に所得税や相続税の計算方法を知るということでなく、租税法の全体を見渡しそれぞれの制度の内容を理解しつつ、その制度がいかなる根拠により作られているのか、また、そこで生じている問題を解決するために何をどう考慮するべきなのか等を考える
というものである。論文は5本あり、豪華なラインアップ。


日本司法書士会連合会

27 August 2015

欧州におけるFATCA実施につき、3つの問題点が指摘されていた

Leopoldo Parada, Intergovernmental Agreements and the Implementation of FATCA
in Europe, World Tax Journal Volume 7, Issue 2, 201-240 (June 2015)である。

その3つの問題点とは

  • UKにおけるquoted Eurobonds
  • スイスと米国のIGAにおけるgroup requests
  • IGAモデル1Aにおけるcoordination timing条項
である。前途の道のりは、なおbumpyな感じがする。

25 August 2015

平成27年度税制改正の英文解説が、財務省ウェブサイトでアップされていた

FY2015 Japan Tax Reform (March, 2015) である。表紙が「ボクの楽しい夏休み」風の絵で、ほほえましい。中身は、法人税率引き下げとか、国境越えの電子通信利用役務のVATとか、国外転出課税とか、CRSとかで、いつから施行するかも念入りに書いてある。

22 August 2015

再分配的租税政策をめぐるパラドックス

UCLAのStark教授のこの論文が、

The Role of Expressive Versus Instrumental Preferences in U.S. Attitudes Toward Taxation and Redistribution, in Philosophical Explorations of Justice and Taxation 167 (edited by Helmut P. Gaisbauer, Gottfried Schweiger, and Clemens Sedmak, IUS Gentium, 2015).

米国の再分配的租税政策をめぐるパラドックスを論じていた。そのパラドックスとは、米国人が増大する経済的不平等に懸念を有しているという投票結果がある一方で、同じ投票結果によると、不平等を緩和する再分配的租税政策に大衆的反対が示される、というものである。イメージとしてわかりやすいのが、ブッシュ減税を契機にして2003年に出たマンガであって、Homer Simpsonが自分にもたらされた2ドルの減税を祝しており、しかし、実際には彼の裕福なボスはいくつものバッグ分の大きな減税を得ていた、というものである。

Stark教授は、投票者の選好表示が、instrumentalなもの(その政策を実現しようとするもの)でなく、expressiveなもの(政策の実現の有無にかかわりなく表示するためのもの、たとえばひいきの野球チームの試合で喝采しブーイングするがごとし)であるという仮説でもって、このパラドックスに挑んでいる。このexpressive preferenceという考え方は、公共選択論で1990年代からいわれてきたことらしい。へえ!

19 August 2015

平成27年度税制改正で、AOA関係の規定がさらに進化していた

平成26年度税制改正で帰属主義への移行が法制化され、ざっくりいって、法人については平成28年4月1日からスタートし、個人についてはさらに遅く平成29年1月1日から適用されることになっている。そして、平成26年度改正で法人税法や関連する租税特別措置法について大幅な改正がされたことは、周知の事実。

しかし、それで改正がすべて完了したわけではもちろんない。法人税法についても、平成27年度税制改正で、さらに新しい規定が付け加わっている。たとえば、142条の9である。

この規定は、次のAとBのバランスを念頭においている。

A 本店→PE→第三者
外国法人の本店からPEに、国内不動産を内部譲渡したのち、PEが第三者に再譲渡
→この場合、本店とPEの間の内部取引を時価で認識するがゆえに、再譲渡からはPEに帰属すべき譲渡益が出てこない。

B 本店―→第三者
外国法人の本店が、国内不動産を第三者に直接に譲渡
→この場合、「国内にある資産の譲渡から生ずる所得(新法人税法138条1項3号)」として、譲渡益に課税される。

そこで、Aの場合について、その内部取引の直前の帳簿価額に相当する金額で内部取引を行ったものとして、当該外国法人のPE帰属所得に係る所得の金額を計算することにした。これが新法人税法142条の9である、というわけである。

なるほど、芸が細かい。安河内さんや山田さんたち立案担当者による解説が、ここの704頁で読める。解説は、本店所在地国で、譲渡損益を認識しないことを前提としているようである。もしその国が、territorialな税制の下で、課税権離脱時に含み益を清算するような課税ルールを導入した場合には、日本国との間で相互協議案件になるのだろうか。さらに論点がありそうで、興味深い。日本にある不動産なのだから、日本国に優先的課税権が認められてしかるべきではあるのだが。
(特定の内部取引に係る恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算)
第百四十二条の九  外国法人の恒久的施設と第百三十八条第一項第一号(国内源泉所得)に規定する本店等との間で同項第三号又は第五号に掲げる国内源泉所得を生ずべき資産の当該恒久的施設による取得又は譲渡に相当する内部取引(同項第一号に規定する内部取引をいう。以下この項において同じ。)があつた場合には、当該内部取引は当該資産の当該内部取引の直前の帳簿価額に相当するものとして政令で定める金額により行われたものとして、当該外国法人の各事業年度の恒久的施設帰属所得に係る所得の金額を計算する。
2  前項の規定の適用がある場合の外国法人の恒久的施設における資産の取得価額その他同項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

14 August 2015

米国財務省2016年グリーンブックの国際課税関係の提案につき、紹介と分析が出ていた

一高龍司「米国財務省『2016財政年度歳入提案に係る一般的説明』における国際課税関係の提案―19%ミニマム税を含む―」租税研究790号447頁(2015年8月)である。提案の目玉が19%ミニマム税であることを指摘している。

ここに19%ミニマム税とは、ざっくりいえば、海外に被支配会社(CFC)を置いている米国法人に対して、19%から国別外国実効税率の85%を控除した税率によって、送金の有無を問わず即時課税するものであって、現在のSubpart F税制の補完である。

一高教授は、財務省のこの提案が「米国法人に対する国際課税の基本設計の見直しを図るもの」としたうえで、次の4点を指摘する。いずれも示唆に富む。

  • Shaviro提案との類似性
  • 米国法人を親会社とする多国籍企業グループへの影響
  • ミニマム税を賦課されるCFCの居住地国の反応
  • 租税条約などとの関係
他にも、ミニマム税への移行時に、CFCに蓄積されてきた利益に対して1回限りで14%税率で課税する提案などが、財務省提案の中には含まれている。実現可能性は別として、オバマ政権の考え方を示す文書である。グリーンブックの本体はこれ

11 August 2015

日韓で租税徴収共助の予定事例が報道されていた

2015年4月15日付けの韓国経済新聞/中央日報日本語版のこの記事による。さわりの部分を引用すると・・・
企画財政部と国税庁によると、最近、韓国政府と日本政府は相手国で互いに税金徴収権を保障する協約「徴収共助約定文」を結ぶことにし、細部条項を調整中だ。この約定が締結されれば、韓国政府に税金を納めなかった滞納者の日本国内の財産を国籍に関係なく韓国政府が差し押さえて税金として徴収できる。
ひとまず政府は国内の財産がなく税金を追徴できなかった“船舶王”クォン・ヒョク・シドグループ会長の日本財産を差し押さえ、数千億ウォンの滞納額を徴収する計画だ。 
と述べている。

1999年署名の日韓租税条約27条の徴収共助条項は条約濫用の場合のみをカバーする制限的なものである。したがって、上の引用文にいう協約はおそらく、マルチの「租税に関する相互行政支援に関する条約」の包括的な徴収共助条項に基づくものであろう。

25 July 2015

東南アジアのかなりの国々が、OECDグローバルフォーラムに入っていなかった

Satoru Araki, Regional Cooperation and Tax Information Exchange among Asia-Pacific Tax
Authorities, Asia-Pacific Tax Bulletin, Vol. 21, No. 4 (2015)によると、東南アジアのミャンマー、タイ、ベトナム、カンボジア、パプアニューギニア、そしてモンゴルといった国々が、OECDのGlobal Forumに入っていない。

たしかに、他の地域と比べても、緊密な相互交流が弱いという感じはずっともっていた。しかし、こうして論文の形で、政府間の租税情報交換の現状をつきつけられてみると、やはり事実は重いし、課題は租税情報交換にとどまらないと思う。途上国の中でも行政資源不足に悩む国にとっては、国際課税の視点と、開発経済の視点をうまく組み合わせる必要があり、この論文の著者のようなアプローチが望まれる。

そういっているうちに、欧州では、独蘭がルーリングの自発的情報交換につき合意したという発表に接した。ニュースになりやすいそういった状況からはかなり遠いのが、東アジアの現状である。もちろん、歴史的・社会的・経済的に多様な要素を抱えている以上、こうなっていることにも理由はあるのではあるが・・・。



14 July 2015

課税ベース防御の国連ハンドブックが出ていた

United Nations Handbook on Selected Issues in Protecting the Tax Base of Developing Countries (2015)である。Brian Arnold教授とHugh Ault教授が中心となり, Peter Barnes, Graeme Cooper, Wei Cui, Peter Harris, Jinyan Li, Adolfo Martín Jiménez, Diane Ring, Eric Zoltの各教授が分担して、BEPS対応の主要論点を検討している。

ちょうどいま、エチオピアのAddis Ababaで、Third International Conference on Financing for Developmentをやっていて、そこで税制について会合が開かれている。今週のThe Economistも、これにあわせて、Financing development: Beyond aidという巻頭記事に続いて、Financing development: Tax them and they will growという記事を出していたところ。Seth Terkper、がんばれ。

12 July 2015

VATの免税点は、小規模事業者の行動にどう影響しているか

免税点の前後でbunchingを起こしている、というのがこの記事

免税点以下の事業者は、任意に課税事業者登録ができる。では、どういう場合に課税事業者になるインセンテイブをもつかといえば、それは
  • 売上に比べて仕入の割合が高くて仕入税額控除を利用したい場合
  • 事業者に対する売上の比率が高くて(消費者に対する売上が多い場合に比べて)価格への転嫁が容易である場合
と考えられる。逆に、仕入の割合が低い場合や、消費者に対する売上が多い場合に、課税事業者になることを選択しないことが予想される。これを英国の2004年から2009年のデータに適用して、実際にそうなっていると実証。さらに、bunchingのメカニズムや、成長に対する影響についても、検討している。もとの論文、Liu and Lockwood, VAT Notches (2015).

そうか、VAT免税事業者の制度は、こんなふうに機能していたのであったか。

10 July 2015

仮想通貨の課税について、博士論文が出ていた

Aleksandra Bal (2014) のここに要約と動画がある。現物はここから読める。そもそも課税すべきでないという彼女の主張と、独蘭英米で実際に課税をはじめているというリサーチとの対比が、えもいえず不思議な感じ。所得課税だけでなく、VATも検討している。

Bitcoinについては、つい先月末にもFATFが規制に乗り出すなど、動きが急。7月9日付けの朝日新聞によると、日本の金融庁も、
ビットコインなどインターネット上の仮想通貨に対し、金融庁が規制に乗り出す。現金と交換できる両替所や取引所を、免許制か登録制にする。新法をつくるか、金融商品取引法などの改正で対応するかはこれから検討するが、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する。
とのこと。日本の税制はその後追いか?

08 July 2015

所得再分配における法ルールと税制の選択について、ノートが出ていた

Zachary D. Liscow, Reducing Inequality on the Cheap: When Legal Rule Design Should Incorporate Equity as Well as Efficiency, 127 Yale L.J. 2478 (2014)
で、すでに1年以上前の2014年5月号だった。

これはいわゆるLaw ReviewのStudent Noteであり、Kaplow and Shavell, Why the Legal System Is Less Efficient than the Income Tax in Redistributing Income, 23 J. LEGAL STUD. 667 (1994) が「法ルールではなく税制だけでいくのが望ましい」と述べてから、Sanchirico教授や、最近のGamage教授の応答などを含め、ずっと議論されている点について、「厚生最大化に関する伝統的な経済学の理解の枠内において、法ルールが公平を考慮すべきである」と主張し、その理由を2点あげるもの。


好意的な書評がこのポストにある。

07 July 2015

NK通達は2回改正されていた

任意組合に関する所得税基本通達36・37共-20は、東京高判平成23年8月4日をうけて、平成24年8月30日付けで改正されたものである。

同通達は、それ以前に、平成17年の課個2-39、課資3-11、課審4-220で、改正されている。平成24年の改正ほど明確ではないが、すでに総額方式を原則とする考え方にたっていたことが、後藤昇ほか編『平成21年版所得税基本通達逐条解説』383頁の次の記述から読み取れる。
(前略)その所得の計算方法は、組合員がその分配割合に応じて、組合の収入、支出の金額、資産、負債を有するものとして計算される所得金額によることを原則とするものである。
この段階の通達は、継続適用を要件として中間方式や純額方式を認める、というものであった。その理由としては、「実際上困難な場合も生ずるので(同383頁)」と解説されていた。

これが、平成24年の上記通達改正により、総額方式により計算することが「困難と認められる場合」で、かつ、継続して中間方式か純額方式かにより計算している場合に、その計算を認める、という具合になり、総額方式を原則とすることが明確に示された。「困難と認められる場合」に関する注があること、経過的取扱いが示されていること、に留意する必要がある。

この記事に追加。

04 July 2015

減る貯蓄、横ばいの消費

第13回税制調査会(2015年7月2日)資料一覧の中に、 「経済社会の構造変化~経済循環の変化~」というマクロのデータが示されていた。以下そのスライドの頁でみていくと・・・
  • 10頁 マクロでみた賃金・俸給が、1990年代をピークに減少傾向
  • 11頁 賃金等の総額が減る中で、社会給付が家計の可処分所得を下支え
  • 12頁 1990年代後半以降、可処分所得は低下傾向、貯蓄低下によって消費は横ばい
  • 13頁 1994年から2013年の間に、全体として貯蓄は34兆円減少
とのことである。人口が高齢化すると、ライフサイクルの中で貯蓄を取り崩して消費にあてるところが、マクロの数字でも大きく出てくる、ということか。

28 June 2015

民主主義は経済成長の原因か

Acemogluたちのこのペーパーが、民主化が長期的に20%GDPを増加させるといっている。要約がこの記事



21 June 2015

英国Diverted Profits Taxの運用について、座談会が出ていた

78 Tax Notes Int'l 880 (June 8, 2015)である。2月9日刊行の議論に続き、E&Yのtax teamが、Tax Analysts記者の鋭い問いに簡潔に答えていた。2月9日の議論はドラフト段階のものだったが、4月からDiverted Profits Tax(DPT)が施行されたのをうけて、今回は、現場の運用がどうなってきているかを、かなり具体的に論じている。

含蓄が深い(深すぎる)点も多いが、おおむね理解できたところでは、たとえば、次のようなことが印象に残る。
  • 英国企業は主にcompliance issueとみており、米国企業は実際に課税リスクを伴う重大なことがらととらえて分析をはじめている。
  • 新しくAPAを結びたいと考える企業が増加。
  • Lower-risk populationと、higher-risk populationとで、HMRCに対してnotificationをするかどうかの対応が分かれる。
  • HMRCのLarge business unitの中のdigital economy teamがdiverted profits teamと改名して、賦課をはじめている。
  • 取引の再構築(recharacterization)に関するスタンスが、BEPS actions 8-10と、HMRCとで異なり、HMRCは租税が主なドライバーだったかにより強く着目。
  • 米国でこの税が外国税額控除の対象になるかについては、a little bit of yes and noという微妙な答え。租税条約で明記するか、米国国内法のあてはめか、いずれかの道があるところ、後者は複雑で米国財務省が公にコメントを出していない。
  • 米国でCFC Rule(Subpart F)を発動すれば、英国のDPTから税額控除できるが、その期間が短く、timing mismatchが生ずるおそれあり。
  • DPTの条約適合性に関してlegal challengesが生ずるかどうかについては、あまり生じないのではないか、なぜならHMRCが適用対象を狭くとってvery significant profits in tax havensの事案に限る運用をするのではないか、という推測。
  • 米国企業会計上、引当金を積むことになるか、uncertain tax positionとして扱うか、という論点。
  • 豪のように他の国もDPT類似の税を入れていくと、BEPS Projectの重要な構成要素であるマルチラテラルな対応が失敗したことになるかについて、1)low-taxed, low-substance situationを特定して課税権を配分する英国のようなアプローチと、2)IP-rich value chainsの利益を分割するやり方を抜本的に改革するアプローチがあり、1)のアプローチをとっただけで失敗といえるかどうかはわからない、という意見。
 UK Government annoucement

17 June 2015

最判平成27年5月26日 住民税の賦課決定の期間制限

この判決が、地方住民税の賦課決定ができる期間制限について、新たな判断を示していた。

個人住民税所得割は、国税としての所得税に準拠しており、前年の所得を対象として課されることになっている。そのため、所得税のほうで変動が生ずると、住民税にも影響が及ぶ。

この事件では、飯塚市長が住民税所得割を増加する賦課決定をした。そこに至る経過は、おおむね次のようなものだった。
  • 平成16年分から平成18年分までの住民税(地方税)が問題
  • 平成15年分から平成17年分までの所得税(国税)につき、納税者が確定申告
  • 平成19年3月14日 所得税につき、飯塚税務署長が更正
  • 平成20年4月22日 国税不服審判所の裁決(更正を一部取消)
  • 平成21年10月6日 前訴判決(納税者の請求を棄却)
その後、平成22年8月23日に、飯塚市長が賦課決定をしたわけである。法定納期限から3年が過ぎていたし、上記の更正からみても2年がすぎていた。しかし、前訴判決からは2年以内だった。

最高裁は次の解釈を示したうえで、飯塚市長の賦課決定が期間制限後にされたもので違法であるとした。
個人の道府県民税及び市町村民税の所得割の課税標準は,前年の所得について算定した総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額とされ(地方税法32条1項,313条1項),これらの総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額は,原則として所得税法における計算の例によって算定するものとされ(同法32条2項,313条2項),所得税の課税標準(所得税法22条1項)を基準としていることから,所得税の課税標準に異動があったときは,その異動した結果に従って個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定をすべきこととなる。しかるところ,所得税の課税標準に異動を生じさせる処分や裁決等が地方税法17条の5の規定に定める期間を経過した後にされることもあり得ることから,同法17条の6第3項は,課税の適正を期するため,上記の所得税の課税標準に異動を生じさせる処分や裁決等がされる一定の場合においてすべきこととなる個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定について,それぞれの場合につき定められた一定の日の翌日から起算して2年間においてもすることができる旨を定めたものであると解するのが相当である。
したがって,個人の道府県民税及び市町村民税の所得割に係る賦課決定の期間制限につき,その特例を定める同項3号にいう所得税に係る不服申立て又は訴えについての決定,裁決又は判決があった場合とは,当該不服申立て又は訴えについてその対象となる所得税の課税標準に異動を生じさせ,その異動した結果に従って個人の道府県民税及び市町村民税の所得割を増減させる賦課決定をすべき必要を生じさせる決定,裁決又は判決があった場合をいうものと解するのが相当である。

下線を付したところを本件にあてはめると、前訴判決は「当該不服申立て又は訴えについてその対象となる所得税の課税標準に異動を生じさせ」るものではない。だから、前訴判決を起点として期間制限の特例2年をカウントすることはできず、飯塚市長の賦課決定は期間制限にひっかかるということになる。

今後、住民税の執行にあたる地方自治体としては、まず税務署が所得税の更正をしたらそこから2年内に賦課決定をし、その後納税者が所得税を争って課税標準に異動が生じたらその都度異動後の状態にあわせて賦課決定をしていく、という対応が必要になりそうである。

14 June 2015

最判平成27年6月12日(TK航空機リース雑所得区分事件)、「正当な理由」ありと判断

裁判所ウェブサイトのここ。匿名組合(TK)に関する所得税基本通達が、平成17年12月16日付けで改正された。最高裁は、このことをもって
所得区分に関する課税庁の公的見解は変更されたもの
と評価したうえで、平成15年分と16年分につき旧通達に従って不動産所得として申告していたことにつき、
真にA[原告・納税者]の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお同人に過少申告加算税を賦課することは不当又は酷になる
として、国税通則法65条4項の「正当な理由」ありと結論した。東京高判平成24年7月19日税務訴訟資料262号順号12204のこの点に関する判断を覆したものである。通達改正が経済活動に及ぼすかく乱効果を小さくするために必要な多方面の努力のひとつを、最高裁として果たしたものといえよう(控訴審の判批・税研178号46頁、49頁を参照)。

なお、この最高裁判決は所得区分につき次のように判示しており、TK課税に関する判例として意義がある。
匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から受ける利益の分配に係る所得は,当該契約において,匿名組合員に営業者の営む事業に係る重要な意思決定に関与するなどの権限が付与されており,匿名組合員が実質的に営業者と共同して事業を営む者としての地位を有するものと認められる場合には,当該事業の内容に従って事業所得又はその他の各種所得に該当し,それ以外の場合には,当該事業の内容にかかわらず,その出資が匿名組合員自身の事業として行われているため事業所得となる場合を除き,雑所得に該当するものと解するのが相当である。前記・・・の取扱いを定める新通達は,その内容に照らし,これと同旨をいうものと解される。

04 June 2015

消費税法の国際的側面について、日本の論説が公表されていた

国境を越えた役務の提供について、平成27年度税制改正で、消費税法が改正された。これについて、岡村忠生「国境を越えた役務の提供と消費課税」法学教室417号38頁(2015年6月)が公表されていた。

日本の消費税法は、前段階で課税が行われていない仕入れについて、仕入税額控除を認めてきた。このことを、「税制の重大な脆弱性であり、日本の消費税を不完全で遅れたものとしてきた(40頁)」と評価したうえで、改正の内容と射程を、新法令のすみずみに眼を配って論じている。解釈論として残された重要な問題として、「役務の提供が行われた場所(法4条3項2号)」とは何かという「根本的なもの(43頁)」があると指摘。さらに、「消費」という概念を明らかにすることが、「学術研究に課された困難な課題である(43頁)」と述べて締めくくる。

なお、今回の税制改正については、時期を前後して、国税庁が次のガイダンスを公表した。


国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等関係
国内事業者の方へ
国外事業者の方へ

25 May 2015

The Economist、海外資産隠しに対する米国の対応をチクリと批判

この記事である。米国政府は、FATCAをはじめとして、オフショア銀行口座への資産逃避に対抗する強い姿勢をとる反面で、得られたリストがあるのに効果的な法執行をしていない。というのがこの記事の主張。要旨の段落を引用すると、次のとおり。
But the American government has been nowhere near as energetic and effective as it claims. It has been slow to chase tax evaders exposed by data leakers; it has failed to follow promising leads on some of the biggest fish; it has pulled punches with the biggest banks, for fear of destabilising markets; it botched the most prominent prosecution of a Swiss banker to date; and it has treated whistleblowers shoddily.
内部通報者の扱いや、フランス政府のより強い対応との比較など、英国週刊誌の眼からみて米国のやり方がどう見えているかがわかる。

22 May 2015

OECD、「格差縮小に向けて(In It Together: Why Less Inequality Benefits All)」を公表

全体で332頁の政策文書である。日本語版のプレス・リリースが読める。

日本カントリーノートも、リリースされている。1980年代中盤からジニ係数が大きくなってきたことや、相対的貧困率がOECD平均を上回ることなど、すでによく知られたことが確認されている。

格差を是正し、包括的な成長を促すためには、労働がキーである。というのが、政策上の処方箋。このあたりが、再分配そのものを前面に押し出すピケティ「21世紀の資本」とやや異なる。

19 May 2015

米国最高裁、メリーランド州の個人所得税につき違憲判断

Comptroller of Maryland v. Wynne 575 U.S. ___ (2015)

メリーランド州の個人所得税には、州(state)の所得税と、カウンティー(county)の所得税がある。居住者が、他の法域で稼得した所得について、他の法域で納税すると、その税額は、州税からは税額控除できるが、カウンティーの税からは税額控除できない。これが州際通商を阻害し、連邦憲法のdormant Commerce Clauseに反するとされた。5対4の判決。

判決直後からいろんな論評がでている。たとえばこれ。もともと、おなじみの3名がAmicus Briefを書いていた


[2015年6月3日追記] この判決について、JOTWELLにコメントがでている。



16 May 2015

五月祭、アルコールパスポート制度が実施されていた

五月祭(大学の学園祭)で、お酒を飲むためには、アルコールパスポート(アルパス)が必要になっていた。免許証や学生証で年齢確認をして、リストバンドを発行する。それを身に着けていなければ、模擬店でお酒を買うことはできない。未成年者飲酒や、飲酒事故を防止するための措置。すでに昨年の5月祭でも実施していた。キャンパス外で買ったお酒をキャンパス内に持ち込む場合にも必要だとしている点は、enforcementの苦労がありそう。

公式マスコット

08 May 2015

Journal of Tax Administrationが発刊されていた

このサイトで見ることができる。第1巻第1号(2015年)末尾の文献ガイドは、英語圏で2014年に出た論文27本を要約しており、なかなか有益。

07 May 2015

税大講本の消費税法が、平成27年度版になっていた

このウェブページである。凡例をみると、「平成27年1月1日現在適用されている法令及び通達によって作成した」とある。したがって、平成27年度税制改正による「電子通信役務の提供」に係る内外判定基準の見直しや、リバースチャージの導入、登録国外事業者制度の創設のように、平成27年10月1日からの適用を予定している新ルールはカバーしていない。

税務大学校

01 May 2015

VAT比較法の教科書、第2版になっていた

もともと定評があった本であるが、第2版はさらにパワーアップした。NZをはじめとする新世界モデルの優位がはっきりとみえてくる。各国の判例も、学習に活き活きとした感じを与える。Wei Cuiさんが著者に加わって、中国の増値税に末尾の一章を割くなど、新工夫。

Value Added Tax

29 April 2015

Asian LII、かなりつかえる

Asian Legal Information Institute, Free access to Asian Lawで、アジア各国の法律一次資料を英文で読むことができる。たとえば日本法はこれ。かなりつかえる。

Hat tip: Tosh Weyman

AsianLII

23 April 2015

平成27年度税制改正のポイントと評価

佐藤英明先生と上西左大信先生の対談が、税研180号(2015年3月)にのっていた。2月13日時点のインタビュー。入念な準備がうかがえるやりとりであり、かなり突っ込んだ評価を加えている。

論点は今回の税制改正の全般に及んでおり、有益な指摘が多い。ほんの数例をあげるだけでも・・・

  • 確定拠出年金法の改正に伴って3号被保険者に税制上の措置が拡大されること、そして、個人単位での課税のため妻の年金は妻の分だけとなり、結果的に給付時にも課税されないことが多くなること、の指摘
  • 地方拠点強化・雇用促進の租税特別措置について、「企業が行きたいほうに背中を押すものでなければ効果を発揮しません」との指摘
  • スキャナによる書類保存制度に関連して、「税務調査や犯則調査についてコンピュータのデータにどのように対応するかは、法律ではほとんど決まってないですね」との指摘

この対談収録ののち、税制改正法案は、2月17日に国会に提出され、3月31日に成立している。

リンクを張ろうとおもってウェブサイトを検索してみたが、この対談部分は一般公開していなかった。広く読まれるべきものであるだけに、やや残念。

機関誌「税研」

22 April 2015

企業内法務の仕事と伝統的弁護士の仕事

柏木昇先生の表記の文章が、法学教室412号(2015年1月号)160-163頁にのっている。達意の文章である。
企業内法務の仕事が企業内法務に実際に携わっている当事者以外にはいまだにほとんど理解されていないらしい
という認識に基づき
法律嫌いで商社に就職した私がどうして血湧き肉躍る企業内法務の仕事の面白さに気づいたか
ということを説明する。文章の目的が明確。これに続く実話に臨場感があり、ひきこまれる。
  • 入社5年目、テキサスの倒産事件。日米の法運用がまったく異なっていた衝撃。
  • インドネシアの鉱山開発融資で、契約交渉の実戦。先生は何歳だったのだろうか。
引き出される教訓に、説得力がある。
  • 営業も財務も法律も「たいした違いはない」、つまり、それぞれの専門から取引の成立に取り組んでいく仕事であること
  • 法律知識以外に、取引知識と財務・経理・税務知識が重要であること
  • 専門家との人脈が大事であること
「意見を言うだけでは仕事は終わらない。」 いかにも先生らしい言葉である。

21 April 2015

今年の租税条約の判例研究会は6月に

なんだか恒例になっているが、ことしはウィーンで6月11日から13日に開かれる。日本の大学はセメスターの中途、授業を休講にすると苦しい時期で、なかなか出ていきにくいのが難点。でも、招待プログラムを見ているだけで、世界各国でいろいろな裁判例が登場していることが感じられる。

17 April 2015

Global Developments and Trends in International Anti-Avoidance Introduction Movie

これである。
この4分の動画をみるだけで、何が起こったか、雰囲気がよくわかる。

hat tip: Stef van Weeghel.

13 April 2015

租税法入門、平成27年度税制改正の補遺

平成27年度税制改正(2015年3月)のうち,特に『租税法入門』の記述に関係する重要なものとして,4点をアップしていただいた。有斐閣のこのページである。

租税法入門

11 April 2015

IMFと日本財務省共催のアジア租税会議、東京で開かれる

The Sixth IMF-Japan High-Level Tax Conference for Asian Countries "Emerging Tax Issues in Asia"である。途上国目線でみた国際課税の課題や租税条約について、報告と議論がなされた。

その公開セッションに出席する機会があった。途上国は最新のルールを導入し執行することを助言されがちであるところ、まずもって、全体として効果的な租税制度と租税行政を構築することが大事だ、というメッセージがよく伝わった。たとえば、移転価格課税をやみくもに強化する以前に、まずは税務執行の足腰をきちんとする、といったような課題である。法にのっとった適正な執行態勢は、ビジネスのためのインフラとして重要である。このことは、企業からのプレゼンターの意見からも、感ぜられた。

以前に注目したスピルオーバーに関するペーパーは、IMFのボードで議論して公式の位置づけを与えられたものであるとわかった。また、租税条約についても、2010年以降に香港が租税条約網を大きく拡大し、モンゴルが濫用のみられた4条約を破棄したことなど、種々の興味深い動きを知ることができた。租税条約上の自動的情報交換を実施するための執行コストに、途上国が対応できるかという論点も、はっとさせられる。


08 April 2015

今年の重要判例解説

ジュリスト1479号「平成26年度重要判例解説」が出ていた。租税法判例の動きを佐藤英明教授が網羅的に解説。とくに取り上げられた6件は、固定資産税2件のほか、ライブドア損害賠償課税事件や、IBM事件、日産自動車事件、Yahoo事件で、いずれも注目の事件。それぞれに、読みごたえがある。


平成26年度重要判例解説

05 April 2015

最判平成26年12月12日延滞税が発生しないとされた事例

簡単な時系列にすると、次の経過をたどった。
  1. 納税者が法定納期限内に相続税を完納
  2. 市川税務署長が減額更正、過納金を還付
  3. 市川税務署長が増額更正、納税者が増差本税額分を納付
争点は、1の法定納期限の翌日から延滞税がかかるか否か。解釈論としては、国税通則法60条1項2号「納付すべき国税があるとき」にあたるか否かが問題。

東京地判平成24年12月8日と、控訴審である東京高判平成25年6月27日は、延滞税がかかるとした。そのロジックは、次のようなものだった。
  • 2の減額更正により、減額された税額に係る部分の具体的な納税義務が遡及的に消滅する
  • その後に3の増額更正がされると、増額された税額に係る部分の具体的な納税義務が新たに確定する
  • よって、新たに納税義務が確定した増差本税額について、更正により「納付すべき国税があるとき」に該当する
これに対し、最高裁第2小法廷は、本件の事例判断として、延滞税がかからないとした。いわく、
本件各相続税のうち本件各増差本税額に相当する部分は,本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増額更正に係る増差本税額の納期限までの期間については,法60条1項2号において延滞税の発生が予定されている延滞と評価すべき納付の不履行による未納付の国税に当たるものではないというべきであるから,上記の部分について本件各相続税の法定納期限の翌日から本件各増差本税額の納期限までの期間に係る延滞税は発生しないものと解するのが相当である。
下線は引用者による。「当たるものではない」ことの論証として、 第2小法廷は、本件の事実関係につき、
  • 納税者として回避し得なかったこと
  • 税務署長は相続土地の評価につき減額更正をしたにもかかわらず自らその処分の内容を覆して相続土地の評価に誤りがあったことを理由に税額を増加される判断の変更をしたこと
を指摘する。そして、本件の場合において延滞税の発生を認めると「明らかに課税上の衡平に反する」と評価し、「納付の遅延に対する民事罰の性質」を有する延滞税の趣旨・目的に照らし、延滞税の発生は法が想定していないとする。

この点につき、千葉補足意見は、「特殊な事情」あるいは「例外的な事案」であることを補足する。これに対し、小貫意見は多数意見の結論に賛成するが、理由が異なる(国税通則法61条1項1号の特例による控除期間があった事案であったため結果的に多数意見と結論が同じになった)。

学説では、谷口勢津夫『税法基本講義第4版』(弘文堂2014年)110頁が、還付に関する法律関係を論ずる箇所で、納税者から還付請求申告書の提出があったときに成立または確定するという解釈を退ける文脈で、
誤って過大な金額が還付された場合、その後にその誤りが発見され、修正申告または課税処分がされたときは、納税者はその金額のうち納付すべき税額に相当する部分に加えて、延滞税をも納付しなければならなくなる。
から、当該解釈をとるべきでないとしていた。

12月12日の最高裁判決ののち、2015年1月、国税庁は同様の事案に係る延滞税についてアナウンスを出した

26 March 2015

もうひとつのシュンペーター像

池上岳彦編『現代財政を学ぶ』(有斐閣2015年)36頁のコラム「もうひとつのシュンペーター像」は、想像できないほど人間くさいシュンペーターの日記を紹介している。母親と妻アンナに先立たれた彼は、毎日、彼女らへの祈りの言葉を丸で囲んで書いたという。「私を助けたまえ。」「数学ができない、助けてくれ。」「自分はバカになったようだ、助けてくれ。」などなど。

このコラムには、塩野谷祐一「シュンペーターの野心―その人生と学問」という2007年の講演のリンクが付されている。これである。読んでみると、これがまたおもしろい。国際ワークショップもあったようだ。

それにしても、自分の日記がこうして広く人々の眼に触れることを、シュンペーター本人は予想していたのだろうか。

21 March 2015

PPL Corp. & Subsidiaries v. Commissioner, 133 S.Ct.1897 (2013)

外国税額控除に関する米国連邦最高裁判所の判決。英国で保守党政権が国有企業を民営化したのち、1997年に政権をとった労働党がwindfall taxを立法化して、1回限りの課税を行った。これが、米国法上、外国税額控除の対象となるかどうかが争われた。米国連邦最高裁は、このwindfall taxは古典的な超過利潤税であるとして、外国税額控除を認めた。

浅妻教授の判例解説がアメリカ法2014-1に出ている。日本におけるガーンジー島事件最高裁判決との比較もされている。この公開ページでは、アメリカ法に出ていない部分も読め、リンクも張ってくれている。

この事件の存在を念頭におくと、2014年に英国がDiverted Profits Taxの導入をアナウンスした直後に、同税が米国で外国税額控除の対象となるかどうかが議論されたことも、きわめて自然なことに見える。対象となると論ずることで、BEPS行動計画へのコミットメントを強めようという力学が働いているのが、歴史の現時点におけるおもしろい磁場である。

20 March 2015

インドでSony事件、納税者勝訴

現地会社の広告宣伝費がbright line testの水準を超過しているとして、移転価格課税。
裁判所はこれを取り消した。Sonyだけでなく、DaikinやHeier, Reebok, Canonなどの事件も併合したcommon judgement。
ここから読める。

HIGH COURT OF DELHI AT NEW DELHI
IITA No. 16/2014
Reserved on: 5th November, 2014
Date of Decision: 16th March, 2015

18 March 2015

GTTCとVogel on DTC

租税条約の注釈が続々と新しくなっている。IBFDのオンラインでGlobal Tax Treaty Commentariesが出てきたし、Klaus Vogel on Double Taxation Conventionsが第4版になった。いずれも国際的な共同作業であるところが、時代を感じさせる。BEPSプロジェクト後の租税条約の世界はかなり変化するだろうが、行く末について考えていくには、現時点までの到達点を知ることがまず必要。

17 March 2015

インドビジネスと移転価格

財務総研の2014年度インドワークショップで、2014年12月3日、双日オートモーティブエンジニアリング代表取締役社長が報告。その議事録を読むと、インドにおける移転価格課税の深刻さをとりあげており、2013年3月末から事前確認制度(APA)が導入されたことへの期待が語られていた。

16 March 2015

東京高判平成26年4月24日 リグは「船舶」にあたるか

海洋掘削等の事業を行う内国法人が、パナマ子会社から、海洋掘削の作業の用に供するリグの貸付けを受け、その対価を支払った。これが日本の所得税法上、「内国法人に対する船舶・・・の貸付けによる対価」(161条3号)として源泉徴収の対象となるかどうかが争われた。東京地裁、そしてその控訴審である東京高裁は、ともに、この3号にいう国内源泉所得にあたるとして、源泉徴収を肯定。

原告は、本件リグは船舶ではなく、減価償却資産としての「機械及び装置」(161条7号ハ)にあたり、専ら国外において行う業務の用に供されていたから,国内源泉所得にあたらないと主張していた。裁判所が「機械及び装置」該当性を論じなかった理由として、浅妻章如・判批・ジュリスト1477号(2015年3月)8頁、9頁は、「船舶」に関する規定は「機械及び装置」に関する規定の特則である
という構造が判旨の前提にあると指摘する。

国際運輸業で船舶を運航する事業については、古くから相互主義免税のルールが発展してきた。これに対し、所得税法上の源泉徴収では、船舶の所在地や業務関連性を問わず、貸付けを受ける者が内国法人であるかどうかに着目して国内源泉所得に取り込んでいることに気づかされる。

15 March 2015

大阪地判平成25年6月18日 問屋と消費税

この判決である(確定)。原告は、大阪市中央卸売市場で牛枝肉の卸売業を営んでいた。原告は、出荷者から販売の委託を受け、せり売りで買受人を決定する。原告は卸売金額の3.5%の委託手数料を受け取るにすぎず、残りは出荷者の取り分になる。

原告の立場が商法上の問屋(商法551条)であることに、当事者間で争いがない。

出荷者 ―――原告
(委託者)    (問屋)
           ↓
          買受人
          (相手方)

すなわち、原告と相手方との外部関係は、問屋が売買契約の当事者となる。委託者と原告との内部関係は、委任関係となる。

大阪地裁は、消費税法13条につき、
資産の譲渡等を行った者の実質判定は、その法的実質によるべきものと解される(このように解すべきことは、当事者間に争いがない。)。
としたうえで、原告が牛枝肉の譲渡を行ったものと判断した。その帰結として、消費税法39条1項の貸し倒れによる消費税額の控除の適用を、原告に対して認めた。その際に、次の点を判断要素としてあげている。
  • 原告が売買代金回収リスクを負うこと
  • 売買契約の締結に出荷者が特段の関与をしていないこと
  • 買受人に対する瑕疵担保責任を負うのも原告であること
この事件について、仲谷栄一郎=中島真嗣「問屋(コミッショネア)の税務問題(上)」NBL1029号(2014年7月)70頁、76頁は、仕入税額控除がどうなるか、という問題を提示している。この点、西山由美・判批・税研178号(2014年11月)227頁、229頁は、ドイツ売上税法3条3項が、委託者と問屋の間で委託物品販売の課税取引をみなす立法的解決を講じていること、連続取引について中間の取引を省略するルールもあること、を紹介する。日本法はそのような特則を欠くから、まずは解釈論によって、消費税法の取引の鎖をつなげていくことが課題である。その意味で、信託・遺産・組合について「『私法上の帰属』の精確な考察」に立脚した課税要件規定の設定と適用が不可欠であるという主張(藤谷武史「所得課税における法的帰属と経済的帰属の関係・再考」金子宏ほか編『租税法と市場』(2014年)184頁、200頁)は、問屋についても妥当する。

14 March 2015

ドイツ租税法における外国事業体の取り扱い

2015年1月刊行のこの論文が、ウェブサイトにアップされていた。この論文のドイツ法分析によると、ドイツ法人税法において納税義務を負う形態の類型(Typ)と比較(vergleichen)できる外国(=ドイツ以外の国)の形態は、法人税の納税義務を負う形態として扱う。この判断枠組を「類型比較(Typenvergleich)」という。この枠組が判例で採用され、散発的な批判を招きながらも、実務および学説によって支持されるに至っているという。本論文は、この様子を描き出しており、参考になる。

13 March 2015

東京地判平成25年5月30日判例時報2208号6頁 非永住者にあたるとした例

川口市と米国東部をいったりきたりしていた個人につき、日本に住所がある(=居住者である)とし、さらに、非永住者であると認定した事例。

本件の当時、非永住者の定義は、
居住者のうち,国内に永住する意思がなく,かつ,現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人をいう。
とされていた(所得税法2条1項4号、下線は引用者による)。東京地裁は、本人の滞在日数や、家族の居住状況、米国永住権の取得、父の墓の米国への移築など、本件にあらわれた事実を総合考慮して、納税者が日本国内に永住する意思を有していなかったと認定した。

平成18年度税制改正で、非永住者の定義は次のように変わり、永住意思が要件でなくなった。
居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう。
したがって、現在では、上の争点は問題にならない。また、本件の納税者は日本国籍を有していたから、現在のルールでは、非永住者にあたる余地がない。こうして、本判決の意義に現在における意義としては、「もっぱら内心の意思が問題となる場合において、それを多数の外形的事実から推認することによって認定するという一般的な判定手法を示した事例」 (宮崎裕子・判批・税研178号175頁、177頁)ということになろう。

なお、本判決は、他の争点についても判示している。たとえば、住所認定の手法として、従来の判例を踏襲している。また、オルゴールの譲渡から生ずる所得が「国内にある資産の譲渡により生ずる所得」として国内源泉所得にあたるか、といった点も争われ、国の立証が足りないとしてこれにあたらないしている。判決へのリンク