08 July 2016

21世紀政策研究所の今年の報告書が公表されていた


提言


第1 章 BEPS プロジェクト最終報告書の総括と今後の展望 ..... 青山 慶二 1
1.はじめに................................................................................................................... 1
2.最終報告書の理念と構成について ........................................................................... 2
3.今後の展望 ............................................................................................................... 5

第2 章 BEPS 行動8~10:移転価格税制(総説) .................... 岡田 至康 7
1.概説 .......................................................................................................................... 7
2.無形資産................................................................................................................... 8
3.所得相応性基準 ...................................................................................................... 12
4.リスク .................................................................................................................... 14
5.否認 ........................................................................................................................ 16
6.その他の租税回避の可能性の高い取引に係る移転価格ルール .............................. 17
7.今後の対応 ............................................................................................................. 18

第3 章 行動計画8~10 : 移転価格税制(利益分割法と関連する諸問題)
...................................................................................... 山川 博樹 21
1.はじめに................................................................................................................. 21
2.今般の利益分割法の議論を巡る背景 ...................................................................... 22
3.BEPS プロジェクト最終報告書の利益分割法に関連する議論 ............................... 23
4.「移転価格の結果と価値創造の整合 行動8~10:2015 最終報告」の中の「利益分
割法のガイダンスの作業の範囲」の概観 ............................................................... 26
5.「移転価格の結果と価値創造の整合 行動8~10:2015 最終報告」の中の「利益分
割法のガイダンスの作業の範囲」の考察 ............................................................... 30
6.まとめ .................................................................................................................... 40
<参考> ...................................................................................................................... 43

第4 章 行動7:PE 認定の人為的回避の防止 ........................... 浅妻 章如 47
1.PE の範囲が問題になることの国際租税法全体の体系との関係 ............................ 47
2.代理人PE 認定の人為的回避 ................................................................................. 52
3.準備的補助的活動 .................................................................................................. 54
4.細分化・契約分割 .................................................................................................. 55

第5 章 租税条約の濫用防止に関するBEPS 最終報告書
―米国の動向と我が国の対応のあり方― ..................... 一高 龍司 57
1.はじめに................................................................................................................. 57
2.OECD モデル条約における対処の経緯と現状 ....................................................... 61
3.最終報告書のポイント ........................................................................................... 65
4.米国の動向 ............................................................................................................. 75
5.おわりに................................................................................................................. 84

第6 章 有効なCFC 税制の構築(BEPS プロジェクト行動3)
―CFC 税制を再検討する上でのいくつかの論点― ...... 渡辺 徹也 87
1.はじめに................................................................................................................. 87
2.報告書の概要 ......................................................................................................... 87
3.CFC 税制の趣旨 ..................................................................................................... 89
4.コンセンサスの欠如 ............................................................................................... 94
5.報告書を受けて(日本の制度及び企業の今後) .................................................... 98
6.おわりに............................................................................................................... 100

第7 章 BEPS 行動計画3(CFC ルールの強化)及び行動計画6(租税条約の
濫用防止)に係る事例研究 ......................................... 高嶋 健一 103
1.行動計画3 CFC ルールの強化 .......................................................................... 103
2.行動計画6 租税条約の濫用防止 ........................................................................ 134

第8 章 行動4:利子の控除制限 ....................... 原口 太一・上田 滋 147
1.はじめに............................................................................................................... 147
2.BEPS 行動計画における内容・目的 .................................................................... 147
3.BEPS 行動計画が公表される前のOECD における議論 ...................................... 148
4.BEPS 行動計画の公表後から最終報告書の公表までの経緯 ................................ 151
5.最終報告書の概要 ................................................................................................ 153
6.ベストプラクティス・アプローチと本邦現行税制との比較 ................................ 156
7.ベストプラクティス・アプローチが我が国の経済活動へ与える影響 .................. 159
8.おわりに............................................................................................................... 161

04 July 2016

バウチャーのVAT取扱いに関するEU指令が、採択されていた

Council Directive (EU) 2016/1065 of 27 June 2016 amending Directive 2006/112/EC as regards the treatment of vouchersである。だいぶいろいろな解釈問題がありそうで、教室設例でずいぶん議論できそうだ。

適用対象については
Only vouchers which can be used for redemption against goods or services should be targeted by these rules.
と書いてあって、財やサービスと引き換えるものだけが対象になっている。さらに、
The provisions regarding vouchers should not trigger any change in the VAT treatment of transport tickets, admission tickets to cinemas and museums, postage stamps or similar.
ということなので、運送切符や映画館入場券、郵便切手などには影響しない。

課税ルールは、次の区別による(VAT指令30a条)。一方で、単一目的バウチャー(single-purpose voucher)については
Where the VAT treatment attributable to the underlying supply of goods or services can be determined with certainty already upon issue of a single-purpose voucher, VAT should be charged on each transfer, including on the issue of the single-purpose voucher. The actual handing over of the goods or the actual provision of the services in return for a single-purpose voucher should not be regarded as an independent transaction.
というわけで、引き換える財やサービスのVAT取り扱いがバウチャー発行時に確実に決定できる場合、バウチャー発行時に課税(30b条(1))。

他方で、複数目的バウチャー(multi-purpose voucher)については
For multi-purpose vouchers, it is necessary to clarify that VAT should be charged when the goods or services to which the voucher relates are supplied. Against this background, any prior transfer of multi-purpose vouchers should not be subject to VAT.
という具合に、財やサービスの供給時に課税(30b条(2))。

2018年12月31日よりもあとに発行されたバウチャーについて適用するという。これに間に合うように、EU加盟国が国内法を改正することになる。



03 July 2016

人工知能のインパクト

The Economistのこの記事が19世紀初頭との比較でもって、現代の人工知能が私たちの社会に与える影響を論ずる。仕事のあり方が変わる。しかも急速に。だから、人的資本の形成のやり方や、社会保障システムに、対応が必要だという。

特集記事はだいぶ長いが、2点が印象に残る。
  • 仕事への影響に関する記事は、機械に置き換わる仕事かどうかを決めるのはルーチン作業か否かによるのであり、肉体労働であるか否かによるわけではないという。つまりコンピュータも自前で、定型の頭脳労働ならできるようになるということ。それはそうだろう。囲碁でAIが人間に勝ったことからすると、ノン・ルーチンの仕事ですら果たしてどうなるか。
  • 教育政策に関する特集記事は、個別知識の賞味期限が短くなっていく中で、常に学び続けていけるようにすることを強調。この文脈から、MOOCSのような公開システムが出てきたことの意味がわかってくる。Udacity, Coursera, edXはすべてAIのコミュニティーから出現したわけで、創立者は教育システムのオーバーホールが必要だと信じているという。なるほどね。ただし、最後のあたりでベーシックインカムに触れているところは、この雑誌の最近の主張のくりかえし。

02 July 2016

岡山地判平成26・7・16訟務月報61・3・702(外国子会社合算税制の適用除外を受けるためには確定申告書に書面添付を要する)

岡山に本店のあるゴム・合成樹脂の成型・加工・販売業の会社Xが、香港に子会社Aを置いて、広東の会社Bとの間で来料加工。

国税不服審判所平成24年1月25日裁決は、詳しく事実認定を行い、Aの主たる事業は製造業であり、その事業を主として本店所在地国等で行っていたといえないとして、外国子会社合算税制の適用除外にあたらないとした。X出訴。

岡山地裁の判決は、今度は、確定申告書に租税特別措置法66条の6第6項の書面添付がないという理由で、適用除外を認めなかった。

平成19年改正前の同6項は、次のように規定していた。
第一項各号に掲げる内国法人が第三項又は第四項の規定の適用を受ける場合は,当該内国法人は,確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付し,かつ,その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存しなければならない。
判決は、この規定を次のように解釈した(番号、下線、色付けはすべて引用者による)。
措置法66条の6第6項は,ある特定外国子会社等が適用除外要件を満たすかどうかを判断するに際し,その事業内容,事業に係る取引相手などを適正に審査することが必要になることを受け,同条1項各号に掲げる内国法人に確定申告書への適用除外記載書面の添付等を義務付けることによって,①当該内国法人に適用除外規定の適用を受ける旨の意思を明らかにさせ,②課税庁が適用除外要件該当性の判断の根拠となる資料を当該内国法人から早期かつ確実に収集し,適用除外要件について適正かつ迅速に判断することを可能にするために設けられたものと解されるところ,③その規定文言及び④適用除外要件の判断における上記内国法人からの資料収集等の必要性,重要性に鑑みれば,同条6項は,適用除外規定の適用要件を定めたものと解するのが相当であり,その趣旨は,平成19年改正前の規定文言の下でも既に明らかであったが,同改正によって,より明確なものになったというべきである。
つまり、

  • 6項の趣旨 ①納税者に意思を明らかにさせる、②課税庁が早期確実の資料収集と適正かつ迅速な判断できるようにする
  • 理由 ③規定文言、④上記・・・資料収集等の必要性・重要性
  • 結論 6項は適用除外要件の適用要件だ
ということ。ここで、③は、既定の文言をじっとにらんで、「これは適用要件だ」という頭で読めば、そう読める。でも、そういう頭で読まなければ、それほど一義的なことではない。なにしろ、「適用を受ける場合は」、書面を添付しなければならないとしか書いてないからである。だから、③規定文言がこうなっていますよ、というだけでは、理由としてはちと弱い。

そういうわけで、④上記・・・資料収集等の必要性・重要性、というところがポイントだろう。ここで「上記」というのは、②のことをいいかえている、と読める。つまり、②の早期確実、適正迅速というところが効いていて、あとから書面を出してもだめであって、確定申告書に添付しなければ間に合わないよ、といっているのだろう。

これを要するに、平成19年改正の文言が次のように書いてあることを、必ずしもそう明確には書いていない文言の下で、規定の趣旨を補って解釈で導き出した、ということのように思われる。
第三項又は第四項の規定は,確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面を添付し,かつ,その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存している場合に限り,適用する。
この判決はそのまま確定したようである。もし国税不服審判所の裁決で実体的な適用除外要件について審理していなかったならば、納税者は判決のこの理由だけで控訴を断念しただろうか。

28 June 2016

Oxfordの長い一週間

27日にこれ28日から1日までこれ。京都でこれがあるころ,すでに夏休みになっているのだなあ。

26 June 2016

Brexit

激震だ。合意にこぎつけたEUのATAD(租税回避防止指令)も、UK(あるいはイングランド?)抜きということになりそう。

新しい論評は検索するとすでにたくさんでているが、すでに2月の段階でこの記事が関税・VAT・域内源泉徴収、国家補助金など、多くの論点にインパクトがあることを予想していた。

米国のブログでも論評がでている。たとえば下記の4つめのブログで、Shaviro教授は欧州司法裁判所がCFCルールに制限を加えたため英国は自分がタックスヘイブン化することを選んだが、これでEUのしばりがなくなるところ、英国はすでに決めたことをやり直すことはないだろう、といっている。もちろんこれから具体的にどうなるかは未定で、不安定な状態が続くわけであるが。

Saturday, June 25, 2016

The Tax Consequences Of Brexit


21 June 2016

EUの租税回避対策パッケージ,その後(2)

2016年6月20日24時のデッドラインを過ぎても反対意見がなかったので、日付の変わった21日0時30分付けで、合意が成立した旨のプレスリリースが出ていた。次の欧州理事会で、正式に指令を採択することになる。5つの項目をカバー。

  • 利子控除
  • 出国税
  • GAAR
  • CFCルール
  • ハイブリッド・ミスマッチ
これに対して、欧州委員会も歓迎の声明。Q&Aのアップデートもある。注目された欧州の対応であっただけに、これからどんどん論評が出てくるのだろう。



EUの租税回避対策パッケージ,その後

2016年6月17日の経済財務相理事会(ECOFIN)で,オランダ議長が妥協案を提示。6月20日24時までに加盟国から異議が出なければ政治的合意ができることになる。先の案にあったswitch over clauseが外れている。

また,同日に,Code of Conductについても,後押しする文書が出ていた。Code of Conduct Groupのレポートはこれ

なお,6月20日に,欧州委員会のPierre Moscovici委員長がベルリンで講演していた。透明性とCCCTBにも言及。

20 June 2016

シンガポールがBEPSにコミット

2016年6月16日に、MOFと、IRASが、Inclusive Frameworkに参加することを公表していた。4つのミニマム・スタンダードにコミット。CbCRは2017年1月1日以降開始の事業年度につき適用。

19 June 2016

教師は一日にして成らず

この記事である。より長い記事にのっている下の表は、だいぶ参考になるなあ。目についた点が以下。元データの出所はここだという。

  • フィードバックは効果が大きい。これはまあ、そうだろう。
  • クラスサイズを20名未満にしても、費用のわりに効果がそれほど大きくない。へえ!
  • 校舎の改善は効果ゼロ。どのレベルからの改善かという問題はあると思うけど。


http://www.economist.com/news/briefing/21700385-great-teaching-has-long-been-seen-innate-skill-reformers-are-showing-best

インド財務省が、モデルGST法を公表していた

2016年6月14日付けのこの文書である。2015年12月のドラフトに批判が強く、新しく出したもの。ずいぶん話題をよんでいる

09 June 2016

欧州議会が、パナマ文書調査委員会の設置などに合意していた

2016年6月8日付けのこのプレスリリースである。今後12か月で報告書を提出するという。

また、同日付けで、欧州委員会の租税回避防止パッケージを支持するプレスリリースを出していた。欧州委員会の案より野心的な点のひとつとして、いわゆるswitch-over ruleを推している。EU域外で課税されEU域内に移転する収益が、往々にして非課税となっているところ、15%の最低税率を設定して、EU域外でそれよりも低い税率で課税されている場合、差額を納付させるというもの。賛成486、反対88、棄権103。今後、指令が成立するには、EU加盟国全会一致が必要である。

04 June 2016

英HMRCが、移転価格の第二次調整についてコンサルテーションをはじめていた

2016年5月26日付けのこの文書
Introduction of secondary adjustments into the UK’s domestic transfer pricing legislation  
である。みなし融資(deemed loan)の方法で如何、とコメントを呼びかけている。

この点につき、2010年移転価格ガイドラインは、パラ4.71で次のように述べ、二重課税の可能性を最小化すべきことを促していた。

4.71 In light of the foregoing difficulties, tax administrations, when
secondary adjustments are considered necessary, are encouraged to structure
such adjustments in a way that the possibility of double taxation as a
consequence thereof would be minimised, except where the taxpayer’s
behaviour suggests an intent to disguise a dividend for purposes of avoiding
withholding tax. In addition, countries in the process of formulating or
reviewing policy on this matter are recommended to take into consideration
the above-mentioned difficulties.

また、擬制を用いて私的取引にまで「みなし」の効果を及ぼすことに対しては、下記文献による原理的な批判があることを忘れるべきではなかろう。
Hiroshi Kaneko, Legal Aspects of the Transfer Pricing System, Bulletin for International Fiscal Documentation Vol.49 No.10 (1995).



27 May 2016

国際課税版の「実像把握」が,アップされていた

政府税調のこのサイトである。丁寧にデータを積み上げて,ルクセンブルグやシンガポールなどのGNPでみた「小国」が直接投資・証券投資の導管として用いられる傾向が強まっていることを,説得的に示している。今後の租税政策を考えるうえで,不可欠の基礎資料となるであろう。

特に注目したいのが,このデータの32頁。日本企業の海外展開ということでいえば,リアルな経済活動のあるところに見合った形で拠点が置かれている。これが私の読み取りである。こういう実需に見合った企業経営の世界と,バーチャルなマネーの流れの世界とは,異なるということである。

また,日本からの投資が多いケイマン諸島の位置づけについても,その規範的評価については丁寧に考える必要がある。少なくとも,BVIと比べて規制がゆるやかであるという評価については,正直にいって違和感を禁じえない。

さらにいえば,中間会社を置くことに事業上のやむにやまれぬ理由がある場合もあることに留意しておくべきであろう。たとえば,日本への利益還流や,事業終了時のEXITなどが難しい国への進出にあたって,いったん安全な国に中間持株会社をおき,その中間持株会社の株を売ることで投下資本の回収をはかる,といった例などである。もちろん,これこそが,インドのVodafone事件や,最近のインドとモーリシャス条約の改定の背景にあるわけであるが。

おそらく,リアルな事業活動の世界と,脱税・資金洗浄まで含めた幽霊会社の跋扈する世界とを,きちんと文節化して議論できるかどうかが,水準を保った租税政策論ができるかどうかの分かれ目といえるのではないか。

08 May 2016

ロンドン腐敗対策サミットを前に,貝殻会社の透明性に関する記事がでていた

この記事である。

Corporate ownership and corruption

How to crack a shell

Ownership registries could help to end the corporate secrecy that fosters corruption. But current plans are not promising


パナマ文書の公開をうけて,2016年5月12日にロンドンで開かれるAnti-Corruption Summitの最重要議題が貝殻会社(shell company)の実質的支配者(beneficial owner)たる個人の特定であることを論じている。この記事は,
  • 公開レジストリモデル
  • ゲートキーパーモデル
の2つのモデルの対立があるという。英国が前者を推し,英国の海外領土は後者を推す。後者のゲートキーパーモデルでは,法律事務所や信託会社などがゲートキーパーとなって,会社の実質的支配者の本人確認書類を集めて認証する。それには実務上の問題があると指摘したうえで,この記事は,公開レジストリモデルについて,検証なしの自己申告だけではまったく機能しないというJason Sharmanのコメントを引用して結んでいる。

ふたつのモデルが対立しているというのがこの記事の見立てだが,両方を実施せよ,ということにはならないものだろうか。記事自体,EYの調査(リンクがみつからない-このあたりだろうか)を引用して,ビジネス界の支持があると指摘している。

07 May 2016

米国財務省が,資金洗浄・腐敗・脱税の対策案を発表していた

2016年5月5日付けのこのプレス・リリースである。対策案は次の3つ。
  • Customer Due Diligence (CDD)最終規則。会社が口座を開く際に,金融機関が実質的支配者たる自然人の個人情報を収集し検証するようにする。
  • Beneficial Ownership立法を議会に提案。会社設立の際に財務省に実質的支配者情報を申告する義務を課すための制定法を立法する。
  • Foreign-Owned Single-Member LLC提案規則。現行法の下で情報がとれていないdisregarded entityについて,Employer Identification Number (EIN)を取得し,取引情報などを申告するようにする。
2つめの立法は,議会に対する要請という形をとっている。財務長官のレターはこれ。立法を要請する理由として,金融犯罪と戦うには会社設立時に実質的支配者を開示させることが必要であると述べている。

なお,このレターは,上院が租税条約を承認することや,FATCAを双方向の相互主義的なものにしていくことをも,議会に対して求めている。

https://www.treasury.gov/resource-center/tax-policy/Pages/default.aspx

25 April 2016

会社設立ビジネスの東方移動?

The Economistの次の2つの記事を読むと,パナマ文書のあと,Mossack Fonseca以外の事務所や,パナマ以外の法域に対して,精査の眼が注がれてきていることがわかる。記事の見方は,会社設立ビジネスが東方へと移動していく可能性を示唆するもの。

まず,2016年4月16日号のUnlocking Mossack Fonseca: The key's in Sin City

  • ネバダ子会社を通じて,Mossackにsubpoenaをかけて顧客情報を入手する途があること

そして,2016年4月16日号のAfter the Panama papers: Who next?

  • Mossack Fonseca以外の事務所,たとえばMorgan & Morgan, OIL(Offshore Incorporation Ltd), TMF, Intertrustなどにスポットライトが当たるであろうこと
  • 英領バージン諸島(BVI)で法人登記公開などの規制強化を検討する議論があること
  • その結果セイシェルやサモア,香港に法人設立ビジネスが移動することが一部の人たちの間で「懸念」されていること

なお,やや古いが,これらの背景として,2012年4月7日号のCompany formation: Shells and shelvesが依然として有益

  • この業界に卸売業者と小売業者があること
  • 業者の実名を多数あげていること
  • サービスの内容
  • 収益構造からして,Private equity firmsにとって魅力的な投資先であること
  • 顧客ベースが東に移動するにつれ会社設立ビジネスも香港やシンガポールに移動
  • バハマがBVIを真似し,バハマが手数料を増額したあと3週間でサモアが会社のお引越しをしやすくするよう法律を変えたこと

個別消費税とVATをあわせた所得階層別負担の実証研究が出ていた

Toshiyuki Uemura, Yoshimi Adachi, and Yurie Saitoh
MEASURING THE BURDEN OF INDIRECT TAXATION INCLUDING CONSUMPTION TAX IN JAPAN BY INCOME GROUP
No 141, Discussion Paper Series from School of Economics, Kwansei Gakuin University
2016.03
である。

個別消費税とVATをあわせたところで,日本の消費課税の所得階層別負担を計測し,逆進的であるという結果を得ている。交通通信費(transportation and communication)にかかる個別消費税がかなり逆進的になっている。消費税増税に伴う逆進性緩和としては,低所得者を厳密にターゲットする社会保障政策が必要であるとしている。




15 April 2016

WTOのPanama/Argentina Disputeで,パナマ敗訴

2016年4月14日に上級委員会がこれを出していた。2012年12月からの係争事件である。アルゼンチンの措置に対してパナマがGATSの最恵国待遇と内国民待遇違反を申し立てていた。これを認めるパネルを覆し,パナマの主張を退けた。この決定により,事実上,WTO加盟国は,非透明法域に対する防御措置を講じつづけることが妨げられないことになる。

国際課税に関する紛争処理のフォーラムという点でも重要であるし,決定が公表された時期という点でもたいへん興味深い。

Click here to return to homepage

04 April 2016

BEPS行動13(国別報告書)への対応例

EUでは,会計に関する指令Directive 2013/34/EUの改正によりCbCRを公開する案がある。このサイトによると,リークされた指令案が報じられたのが2016年3月21日。EU域内で国別表示を行うもので,域外は一括表示。批判がこれ


European Commission logo


他方で,シンガポールのBudget 2016はCbCRに一切言及していないというのが,Steve Towersの2016年4月1日のビデオ。エイプリル・フールのジョークかと思いきや,たしかにここにはBEPSという言葉が出てこない。代わりに出てくるBIPSという言葉は, Business and IPC Partnership Scheme (“BIPS”) という似ても似つかないもの。

Singapore Budget 2016

The Panama Papers

これ

26 March 2016

米国2016年モデル租税条約はBEPS行動7(PE認定の人為的回避)にどこまでつきあうか

2016年2月17日に出された米国2016年モデル租税条約は,PE認定の閾値に関するBEPS行動7の勧告の重要部分をとりいれていない。もっとも,これをもって「泣き別れ」になったとみるのは,即断であろう。なぜならば,
の末尾の段落が次のように述べているからである(下線は引用者による)。

The 2016 Model has not adopted the other BEPS recommendations regarding the permanent
establishment threshold, notably the revised rules related to dependent and independent agents
and the exemption for preparatory and auxiliary activities. It is important to ensure that the
implications from any modifications to these treaty provisions are commonly understood and
consistently administered by treaty partners. Accordingly, the Treasury Department is working
with OECD and G20 member countries to create a common global understanding regarding
profit attribution that will address the concerns raised by these BEPS permanent establishment
recommendations. Furthermore, the Treasury Department is interested in developing ways to
mitigate the compliance burdens on businesses and tax administrations that the new permanent
establishment rules could create.

この論旨を逆手に読むと,「PEに帰属すべき利得に関する共通のグローバルな了解」が形成され,「コンプライアンス負担を軽減する」方法が開発できたら,おつきあいしてもいいよ,というニュアンスを読み取ることも不可能ではなかろう。ハードルの高いことかもしれないけれど。

20 March 2016

石油価格の世界的下落に伴い,各国の石油課税に変化が報告されていた

この記事である。

Taxation and oil companies

Oiling the wheels

Governments are easing the tax burden on the industry, with some exceptions


①価格に応じた課税になっているか(油田の利益の一部をとる豪やノルウェー),②バレルあたりの課税になっているか(ブラジルやカザフスタン)で,石油価格の下落がもつ意味がだいぶ異なってくる。すなわち・・・
  • ①であれば価格変動に自動的に対応する
  • ②であれば価格が下落しても1バレルあたりの税額は変わらないから政府の取り分は相対的に増える
この話は,租税法の授業のはじめのあたりで従価税と従量税の違いについて説明するときに,使えそう。

この記事はさらに,英国の昨年の減税を皮切りに,カザフスタンやブラジル,コロンビア,メキシコ,ケニヤ,カナダのアルバータ州などの政府行動が変わったという。ただし,いまだ「底への競争」にはなっておらず,ロシアのように増税が予想されるところもあるといっている。ふーん。少なくともいえそうなことは,「レント税だと政府がどれだけとっても企業行動に影響しない」という話が,現実の石油産業との関係では必ずしも妥当せず,実際にはもっと複雑な考慮を要するということ。

この記事が出た機会に国連のサイトをチェックしてみたが,あまり動きはないよう。

英国2016年度予算はEU残留をにらんでいるとの解説

The Economistのこの記事。高度に政治的な予算(an intensely political budget of fixes and fiddles)だが,にもかかわらずひどく悪いわけではない(it wasn't too bad)という。EU残留を打ち出したGeorge Osborne蔵相からすると
  • 論争を避ける
  • すでにEU残留を支持する多国籍企業には増税,EU離脱に傾く中小企業には減税
  • EU離脱に傾く地域は地方分権で懐柔
という意味があるという。さらに続けて
  • 「次世代のための予算」は不十分
  • 全体として累進的でない
  • 過度に複雑
などと辛口の批評を加えつつも,分別のある経済的方向であるとしている。英国の雑誌が英国のことを論評するのは,読み解きがだいぶ難しい。でも,「へえそうなのか」という感じはする。


BEPS行動11について,渡辺智之教授が論文を公表していた

BEPSを巡るデータ上の諸問題」(2016.03)である。

行動11の報告書は「実態把握という最も基礎的な課題を扱った報告書として重要」なだけでなく,CbCレポート「によって求められているデータの問題と深い関連性がある」とする。そして,この角度から,行動11の報告書の要点をまとめたうえで,報告書の意義と問題点を論じている。

BEPSの数量的把握が依然として困難であることが,教授の抑制されたコメントから浮かび上がる。慎重な姿勢が印象的。

http://www.oecd.org/tax/beps.htm

17 March 2016

山手線で一番無名

北区田端駅のline stampが,「山手線で一番無名!」で人気になった。

けれど,わが文京区にはJRの駅がそもそもひとつもないという事実。

加藤新太郎「事件のスジの構造と実務」に武富士事件へのコメント

加藤新太郎「事件のスジの構造と実務」高橋宏志ほか編『民事手続の現代的使命 伊藤眞先生古希祝賀論文集』(有斐閣,2015年)211頁,233頁注(27)。

民事訴訟審理の終盤で規範と結論との適合性に問題があると認識した場合に,裁判官が自覚的な法解釈により法規範を創造・形成することが試みられる,という本文に続くのが,この注(27)である。同注は,このような試みにも限界があるとする。そして,「具体的妥当性という点から結論のスワリが悪いと感じられるケース」として,相続税法上の「住所」の意義が問題となった武富士事件最判平成23年2月18日判例時報2111号3頁をあげ,かかるケースも「甘受しなければならない」と述べたうえで,須藤正彦『弁護士から最高裁判所判事へ』(商事法務,2014年)126頁を引用している。

27 February 2016

ウェスパシアヌスの増税策

ローマのコロッセウム建設に着手したウェスパシアヌスは,
Pecunia non olet (金は臭わない
の一言でたいそう有名である。しかし最近の研究によると,財源探しは彼にはじまったことではなく,アウグストゥス以降,多くの混乱した試みが続けられていたという。


21 February 2016

iPhoneのロック解除問題

すでに多くの記事が出ているようだが,比較的に要領のよいまとめがReuterのこれ(日本語版)。
直接の発端は2016年2月16日の裁判官の命令で,その後大きな反響を呼んでいる。デジタル化が進んだ社会において,プライバシーに関する原理的な整理が日常的な事件のレベルで迫られている適例。押っ取り刀で検索してみたら,Daniel Soloveはすでにコメントをアップしていた。


 2月17日、米アップルは、銃乱射事件の容疑者が持っていたiPhoneのロック解除に向けて米政府に協力するよう求める連邦裁判所の命令に抵抗している。写真は分解されたiPhone。NY市の修理店で撮影(2016年 ロイター/Eduardo Munoz)

Petrobrasが20億レアルの追徴課税を受けていた

2015年8月のWSJの記事によると,以前からの係争事件についてブラジル政府との間で20億レアルで折り合ったという。

ちなみに7月のReutersの記事では16億。2014年の別の記事では87億。2012年の記事では47億。数字は段階によって違うが,いずれにしてもきわめて巨額。


Petrobras

20 February 2016

The Economist誌、米国の金融透明性欠如を再び批判

この記事である。
Financial transparency - The biggest loophole of all
Having launched and led the battle against offshore tax evasion, America is now part of the problem
Feb 20th 2016 | From the print edition

米国が一国主義的にFATCAをはじめておきながら,多国間枠組みでのCRSには参加しない。このことが,米国を大きな抜け穴にしてしまっている,という。情報源として引用があるのはBloombergやDie Zeit誌,Jason Sharman氏。関連して,パナマがアメリカの動向を言い訳にしてCRSから離れる動きをしているとの記事も出ている。

なお,昨年秋にも,同様の批判がされていた。

Hat tip: @masayoshimu




30 January 2016

欧州委員会の租税回避対策パッケージ

2016年1月28日,欧州委員会がAnti Tax Avoidance Packageを出した。ブリュッセル官僚のイチオシは依然としてCCCTBであるが,まずはG20/OECDのBEPS2015年成果物を受けてEUでなすべきと考えることをパッケージとして示した。概要はここからみることができ,全体を概観できる文書がこれ。

ポストBEPSの実施過程に関心のある人にとって,必読文書。
anti_tax_avoidance_graphic

最判平成27・7・17(固定資産税,納税義務者の特定困難)

堺市西区日置荘(ひきしょう)あたりは池が多い。都市化が進んでこれらが埋め立てられ,登記簿では所有者が「大字西」などと記載されていた。西区だけでなく,南区・東区・北区でも同じように,所有者の帰属を確定することが難しい土地が複数あった。「原審の確定した事実関係等の概要」によると,これらの土地は,
地区の住民の総有に係る財産として,その異動状況の把握のために堺市が作成する財産台帳に登録されている(中略)。そして・・財産台帳に登録されている財産・・・の管理及び処分については,堺市の定める要綱等において,その決定につき当該地区の住民により組織されている自治会又は町会の総会の決議によることが基本とされている。
という状態だった。そして,納税義務者を特定できないとして,固定資産税の賦課徴収が行われていなかった。これに対し,固定資産税の賦課徴収を堺市長が違法に怠ったとして,住民訴訟が提起された。第1審大阪平成25年4月26日判例地方自治400号44頁は一部却下,一部棄却,一部認容。

控訴審大阪高判平成26年2月6日判例地方自治400号71頁は,一部取消。結論に至る判断の過程で,関係自治会等が納税義務者だとした。すなわち,登記簿の表題部の所有者欄に記載されている「大字西」等の名義によって表章される旧来の地縁団体は消滅しているものと同視し,地方税法343条2項後段を類推適用して,関係自治会等が同項後段にいう「現に所有している者」としてその土地の固定資産税の納税義務者に当たるとみるべきである,とした。

最高裁第2小法廷は原審のこの判断を是認できないとした。「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではない」という一般論が固定資産税の納税義務者の確定についても同様にあてはまると述べたうえで,次のように判示。
原審は,本件各土地につき,本件固定資産税等の賦課期日におけるその所有権の帰属を確定することなく、前記2(2)イの要綱等における取扱い等に照らして関係自治会等をその実質的な所有者と評価することができるなどとして,地方税法343条2項後段の規定を類推適用することにより,関係自治会等が本件固定資産税等の納税義務者に該当する旨の判断をしたものであり,このような原審の判断には,同項後段の解釈適用を誤った違法がある
というのである。結論は破棄差戻しであり,
本件各土地につき原審において判断されていない地方税法343条4項の適用の有無等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻す
こととされた。

単なる「執行の不足」というストーリーにおしこめてしまうのは惜しい事実関係。事実関係の概要に出てくる「総有」という性格付けからして不思議にあやしい。そもそも全国津々浦々の土地がもれなく課税権の対象になるのか。課税権からの「飛び地」というか一種の「すきま」は存在しうるのか。近代国家成立以前の「誰のものでもないけど,でもまあみんなの土地」という構成の現代における位置付けが問われるはず。

20 December 2015

2015年のベスト商品


窓の外の工事音を,ほぼ完全にシャットアウトしてくれた。これは福音。

東京地判平成27年3月12日(株式が所得税法33条1項にいう「資産」に該当しないとした事例,日本振興銀行株式低額譲渡事件)

  • 銀行に金融庁の立ち入り検査。Xは銀行の取締役であり,のちに代表執行役。
  • 2010年3月5日付けの株式譲渡契約に基づき,Xが,銀行株式950株をD社に譲渡。1株あたり33万5000円。譲渡益が出る。
  • 9月10日に銀行が経営破たん。
  • 10月20日付けの株式譲渡契約に基づき,Xが,銀行株式3100株を,税理士Cに譲渡(本件株式譲渡)。一株あたり1円。ここから譲渡損が出たとして申告。
  • 中野税務署長が,本件株式譲渡を譲渡所得の計算の基礎に含めることができないとして,更正。
争点は,本件株式譲渡の時点において,銀行株式が所得税法33条1項にいう「資産」に該当しないものであったか否か。

東京地裁は,まず,一般論として次のようにいう。
同項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」には,一般にその経済的価値が認められて取引の対象とされ,増加益が生じるような全ての資産が含まれるが,その一方で,上記の増加益を生じ得ないもの,すなわち,社会生活上もはや取引される可能性が全くないような無価値なものについては,同項の規定する譲渡所得の基因となる「資産」には当たらない
そして,株式について,自益権と共益権に着目して次のように判示する。
株式の経済的価値が自益権及び共益権を基礎とするものである以上,その譲渡の時点において,これらの権利が法的には消滅していなかったとしても,一般的に自益権及び共益権を現実に行使し得る余地を失っていた場合には,後にこれらの権利を現実に行使し得るようになる蓋然性があるなどの特段の事情が認められない限り,自益権や共益権を基礎とする株式としての経済的価値を喪失し,もはや,増加益を生ずるような性質を有する譲渡所得の基因となる「資産」には該当しない
しかるのち,この一般論を事案にあてはめて,結論として「資産」に該当しないとした。

自益権と共益権に着目してあてはめていくところは,整った法的三段論法。その前段の大きな一般論のところで,「社会生活上もはや取引される可能性が全くないような無価値なもの」というところに規範的評価が入っており,本件株式譲渡をはじきだすロジックが組み込まれている。事案をみすえたロジックと読むべきであろうか。

なお,株式が無価値になっていたとすると,経済的な意味での実損はどう扱われるか。この点は争点になっていない。ライブドア損害賠償金課税事件(神戸地判平成25年12月13日判例時報2224号31頁)の発想を援用すれば,保有株式につき資産損失と構成する(所得税法51条4項)ことが考えられる。もっとも,雑所得で売却損を出していた同事件と異なり,本件では譲渡所得で譲渡損を出していて,その射程は及ばない。

ちなみに,本件株式譲渡時の時価はゼロに近かったから,所得税法59条2項の適用の問題にはなりえない事案である。

BEPS行動4の2015年報告書へのコメント

2015年10月に,利子費用の損金算入に関する行動4の報告書が出た。これに対する日本法の角度からのコメントを,租税研究794号に掲載していただいた

そこでは触れていない点を補足しておく。クロスボーダー組織再編で用いられるdebt-push downsに対するtargeted rulesについては,2014年12月の討議文書においては,targeted rulesの対象として言及されていた(パラ181)。今回の報告書では,第9章がtargeted rulesについて述べているが,特にこの点に関する具体的な言及が見当たらない。ということは,米国でPfizer/Allerganのインバージョンについて指摘されているような利子費用控除の問題には,とくに個別措置を勧告しているわけではないということ。

公益社団法人 日本租税研究協会は、民間の立場から財政・税制問題を調査・研究するために創立された団体です。

マレーシア・シンガポール・タイの優遇税制,日本にも出先機関

租税研究794号(2015年12月)に,ベーカー&マッケンジーのEugene Lim et al.による講演「Rise of regional headquarter incentive programmes in Southeast Asia: implications for Japanese multinationals setting up Asian Regional Headquarter operations」が載っていた。

冒頭で,次のように述べられている。
ポストBEPSの世界においても優遇税制がなくなることはないということが,ここにきてはっきりしてきています。
そういう認識であったか。興味深い事実として,たとえば,シンガポールの国際統括本部(IHQ)になるための条件は公表されておらず,条件は具体的には交渉でシンガポール政府と固めることが可能だ,と指摘している(151頁)。

末尾に,「各国の投資開発庁の日本にいる出先の担当者にコンタクトなさるのも一案」との発言があったので,情報収集のためにすこし検索してみた。
探せばほかにももっとあるだろう。BEPS行動5は,アジアのこういう現実の中で考えていかなければならない。


新日独租税条約,BEPS行動に対応

2015年12月17日に署名。日本側のプレスリリースはこれ。ドイツ側のはこれであり,条約のドイツ語テクストはこちらのみにリンクがある。かねてより,ドイツの条約交渉方針は2013年8月22日にリリースされており,事業所得条項でAOAを取り込むことが既定路線だった。検索してみたら,先のリリースへのリンク先はいつの間にか削除されていた。

今回は,AOAの取り込みに加えて,BEPS行動に対応して表題や前文からして新しくなっている。すなわち,表題は
所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のためのドイツ連邦共和国と日本国との間の協定
となっていた。また,前文は
日本国及びドイツ連邦共和国は、
両国間の経済関係の一層の発展を図ること及び租税に関する両国間の協力を強化することを希望し、
所得に対する租税及びある種の他の租税に関し、脱税又は租税回避を通じた非課税又は課税の軽減(第三国の居住者の間接的な利益のためにこの協定において与えられる租税の免除又は軽減を得ることを 目的とする条約漁りの仕組みを通じたものを含む。)の機会を生じさせることなく、二重課税を除去するための新たな協定を締結することを意図して、
次のとおり協定した。
となっていた。条約漁りに対抗してLOBとPPTを入れ(21条),仲裁条項を入れる(24条5)など,面目を一新している。

東京弁護士会税務特別委員会,「税法の基礎知識」をアップしていた

「法律家のための税法」を読むための税法の基礎知識

その前書きを引用する。
東京弁護士会税務特別委員会では,「法律家のための税法」(通称「赤本」)を刊行し,その版を重ね,現在では[民法編]と[会社法編]の分冊となっている。同書籍は,弁護士に求められる税法ないし税務の知識を,民法や会社法の条文に沿って整理しているものであるところ,かかる書籍の体裁から,必ずしも税法自体の基礎知識について十分な記述がなされている訳ではない。
本特集では,「法律家のための税法」を読むにあたり役立つと思われる税法の基礎知識について,実務上特に重要な所得税,法人税及び相続・贈与税を中心に解説する。
次の4本の解説がある。

  • 総論:所得税,法人税,相続・贈与税の体系と基本的な考え方
  • 各論 1: 所得税の基礎知識
  • 各論 2: 法人税の基礎知識
  • 各論 3: 相続税・贈与税の基礎知識

法科大学院の租税法の授業でも重点項目として扱う諸点,たとえばキャピタルゲイン課税や無償取引などが取り上げられている。税務特別委員会の方々が「基礎知識」として何を意識しておられるかが伝わってくるように思う。

17 December 2015

OECD諸国における消費税の分配上の効果(2014.12)

14頁のExecutive Summaryの一節を引用しておこう。すなわち,食料品・水道・エネルギー製品に対する軽減税率についての評価である。
これらの軽減税率は,貧しい家計への支援をターゲットするためには極めて稚拙なツールであることが示される。最善でも,豊かな家計は貧しい家計と同じ大きさの総便益を軽減税率から得る。最悪では,豊かな家計は貧しい家計よりも総額ではるかに大きい便益を得る。
The Distributional Effects of Consumption Taxes in OECD Countries

The Distributional Effects of Consumption Taxes in OECD Countries
In series:OECD Tax Policy Studies
Published on December 10, 2014

14 December 2015

大阪地判平成27年4月14日 清算手続結了前の株式相続と,清算後の留保利益分配へのみなし配当課税

事案はおおむね次のとおり。

  • 株式会社Bの破産手続が開始している中で,2006年に株主Aが死亡して相続開始。
  • 2007年にB社の清算手続が開始し,相続人Xらが,B社株式などにつき相続税の申告。この株式は,財産評価基本通達189の6により,清算の結果分配を受ける見込みの金額によって評価。
  • 2010年にB社の清算手続が結了し,Xらに対して解散により残余財産分配(「本件各分配金」)。

    相続
A ――――→ X

    B社


争点は,本件各分配金のうちみなし配当とされる金額が,所得税法9条1項16号「相続・・・により取得するもの」として非課税となるか否か。

大阪地裁は,非課税にならないとした。最判平成22年7月6日(生保年金二重課税事件)との関係や,清算中の株式評価のあり方など,興味深い論点を含む。

相続のタイミングとの関係で事案を巨視的に位置づけると,(あ)生前に会社を清算して現金を相続する場合と,(い)株式を相続したあとで会社を清算する場合との間に位置するとみることができる。
  • (あ)だと,Aがみなし配当課税を受けて(所得税),税引後の相続財産がXの相続税の対象になる。
  • (い)だと,Xが株式につき相続税の課税を受け,しかるのち,Xがみなし配当課税を受けるであろう(所得税)。そして,(い)について,少なくとも相続後かなりの時期がたっていれば,所得税が課されるという結論に異論は少ないであろう。(株式の取得価額が引き継がれるという暗黙の前提を置いているが・・・)。
とすると,本件については,これらの場合とのバランスも考える必要がありそうだ。控訴中。